「時間銀行」と言うものを見つけた。

    1 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 16:49:39.03 ID:wzot/hv40
    大学の帰り、散歩がてらに通った路地の向こうに、妙に開けた場所があった。
    地元なのにこんな場所は見たことがなく、まるで異世界のように感じた。

    見通しのいい道路と目の前に1つ高くそびえる銀行。
    潰れて長い時間が経っているのか、銀行の看板が剥がれ、何銀行か読めなくなっている。

    廃墟やゴーストタウン、心霊スポットなど、
    人が消えた建造物や街や特殊な雰囲気を持つ場所を
    前からネットでちょくちょく見ていて、そういうものには結構興味を持っていた。

    突然の出来事に驚きつつも心は浮き立ち、
    どこから入れるかを探してみた。


    2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2013/06/20(木) 16:51:05.11 ID:M4VCHZ6u0
    星新一がそんなSS書いてたよ


    7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 16:51:45.16 ID:ZjgQbW3L0
    >>2
    同じこと思った。


    9 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 16:52:33.18 ID:wzot/hv40
    まずはダメもとで正面玄関のドアに手をかけ力を入れてみる。
    鍵が引っ掛かってガンッガンッと反発されることを想像していたが、
    予想に反して、力を込めると重たいながらもきちんと開いた。

    中に目を向けると、真新しい蛍光灯の明かりが屋内を照らし、
    人の話し声が賑やかに響いている。

    外から見たらあからさまに潰れて打ち捨てられた銀行だったのに、
    中に入ると、まるでそれが嘘のように活発に人が行き交っている。


    14 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 16:55:15.85 ID:wzot/hv40
    行員「初めての方ですか、こちらへどうぞ」

    男「え、あ、はい」

    見た目が古いだけで、どこにでもあるただの営業している銀行なら、
    このまま家に帰ろうかと一瞬思ったが、
    行員のお姉さんに呼び出されてしまったし、
    気になることもあるので通された席に座った。


    15 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 16:56:59.25 ID:wzot/hv40
    男「あの」

    行員「はい?」

    男「これはどこの系列の銀行なんですか?表の看板が剥げてて読めなかったんですが」

    行員「はい。当行は時間の銀行でございます」

    男「時間の銀行?」

    男「初めて聞きましたけど」

    行員「日本ではこちらが第一号店となりますので、ご存知でない方も多いんです」

    男「はあ」

    散歩で迷い込んだ場所が時間銀行。
    友達に言っても信じてくれないだろう。
    自分でもまだ信じられないし。
    


    16 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 16:58:44.04 ID:wzot/hv40
    男「それってどういう取引をするんですか?」

    行員「当行は時間銀行ですから、時間のお預入れ、お引き出しはもちろん、
       借り入れや、売却・購入などもできます」

    行員「もしよろしければこの場で口座をお作りすることもできますが」

    最近時間のやりくりが上手く行かなくて、バイトや予定に息詰まる事も多いから、
    余った時間を貯めて足りない時にそれを使えれば、有効活用できるだろう。

    男「・・・じゃあ、お願いします」

    行員「かしこまりました。少々お待ちください」


    18 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:00:33.29 ID:wzot/hv40
    行員「ありがとうございましたー」

    印鑑や身分証明になるようなものは持ち合わせていなかったのに
    すんなりと口座開設が出来てしまった。

    銀行から出て少し歩いたところで振り返ってみると、
    やはり朽ち果てた廃墟のような表向きだ。

    さっきのは白昼夢か?と思いながらも、
    たった今受け取った通帳を見つめる。
    夢なら夢で手元にはないだろうし、現実なら現実でこんなオカルトはあり得ない。
    半信半疑の、どうもしっくりこない感情を抱いたまま、
    入ってきた路地を戻り、家へと向かった。


    19 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:02:22.26 ID:wzot/hv40
    3日後。

    月曜日の朝はいつも憂鬱だ。
    ずっと休日であれば大学に行かなくてもいいのにと思う。

    ぼさぼさの頭で鏡を見ると思わずため息が出てしまう。
    朝食を済ませると、適当に服を合わせ、
    教科書の入ったカバンを持ち、いつもの駅に向かった。


    22 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:05:28.37 ID:wzot/hv40
    朝のラッシュ時は当然ながら結構混む。
    東京の都心の方はこれよりもっとすごいらしいが、
    こっちの電車も十分すぎるほどに混む。
    電車のドアが開いた瞬間に、ドア横の手すりのあたりのスペースに狙いをつけ、
    人が降りきったわずかな隙にそこへと滑り込む。

    高校時代もこうして電車に乗っていたが、
    大学生となった今、高校の制服を着た生徒を見ると少しノスタルジックな気分になる。

    男「・・・。」


    24 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:08:12.45 ID:wzot/hv40
    信号でも踏切でもないところで、急に電車が止まった。
    わずかの後、次の駅で線路内に人が入ったとアナウンスが入った。

    次々と携帯を取り出しどこかへ連絡を取る人々。
    止まった場所が駅のホームであれば、電車を降りてバスに乗り換えることもできたが、
    駅と駅のちょうど真ん中のこの場所ではどうすることもできない。


    27 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:10:15.19 ID:wzot/hv40
    しばらく待っていても電車は動く気配がない。
    車内は外の太陽に照らされどんどんと蒸し暑くなり、
    あっちやこっちで窓を開けたり、手で汗のにじむ顔をあおぎだしている。

    (これだと大学には間に合わないだろうなあ・・・)


    30 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:11:58.77 ID:wzot/hv40
    そう思った瞬間、暑さにやられたのか、めまいを起こした。
    15秒ほどするとめまいは治ったが、周囲にいた人の反応が少しおかしい。

    会社員「・・・すか!?大丈夫ですか!?」

    男「・・・あ・・・すいません、・・・大丈夫です」

    会社員「そうですか・・・?救急車呼びますか?」

    男「いや、そこまでじゃないので大丈夫ですよ」


    車掌「まもなく発車します。お立ちの方は近くの手すりにおつかまりください」


    31 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:13:09.62 ID:wzot/hv40
    少し立ちくらみを起こしただけなのに異常に心配された。
    不思議に思っていると、どこからともなく声が響く。

    「・・・様、只今口座に3分19秒お預かりいたしました」

    それに驚き周囲を見回すが、それらしい人は見えない。
    少し考え、昨日通帳をこのカバンに入れてそのままにしていたことを思い出し、
    カバンから通帳を取り出し、確認してみた。

    昨日までは残高が0だったのに、
    ついさっきので3分19秒貯まっている。

    時間が、本当に貯まっている。


    35 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:16:13.05 ID:wzot/hv40
    大学の最寄り駅までまでの電車の車中、
    しばしば周りの人に心配されていたが、
    その人たちにどう対応すればいいか困った。
    何が起こったか自分でもわからなかったから。

    大学の最寄り駅に着くと、改札を素早く駆け抜け、全力で走って向かったが、
    結局大学は遅刻してしまい、1限は途中から入った。
    サークルもなく、午前で授業が終わったので、朝の出来事を確かめにあの銀行へと向かった。


    39 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:19:11.02 ID:wzot/hv40
    行員「いらっしゃいませ」

    男「あの・・・」

    男「・・・ということがあったんですが」

    行員「そうですか・・・口座開設の際に詳細設定をしなかったので、おそらくそのせいかと」

    男「それってどういうことですか?」

    要約すると、本人にとって無駄になると思われる時間があれば、
    それをすべて貯蓄に回してしまうということらしい。


    41 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:20:12.84 ID:wzot/hv40
    また、貯蓄の特性上、貯蓄している間の時間は活動が一時停止するとこのこと。
    それで朝のラッシュ時に電車が止まって動き出すまでの3分間意識を失い、
    周囲の人にいたく心配されたということになる。

    男「プラン変更って出来ませんか?自分のタイミングでやりたいので」

    行員「はい、かしこまりました」


    44 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:21:38.24 ID:wzot/hv40
    無駄な時間を自動で感知して手当たり次第に貯蓄するプランから、
    自分の心の中で念じて、自分のタイミングで貯蓄出来るプランにしてもらった。


    家に戻り、きちんとその設定になったか、時計を確認してから実験をしてみる。

    (今から1分間、貯蓄)

    一瞬のめまいが解けてすぐ時計を確認すると、時計の針はちょうど1分進んでいた。

    「・・・様、只今口座に1分00秒お預かりいたしました」

    ちゃんと出来たようだ。


    50 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:24:07.83 ID:wzot/hv40
    時間銀行では、具体的な注文から抽象的な注文まで、
    個人のニーズに応じて多様な選び方ができるようで、
    「今から3分」と言えばきっちり3分貯まるし、
    「この後のバラエティ番組が始まるまで」と言えば、
    それまでの時間の長短を問わずにきちんと貯蓄してくれる。

    しかし、これを使うためには、人の視線がないところ、車などの脅威がないところで使う必要がある。
    思わぬ事故や面倒事を避けるためだ。


    53 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:25:45.66 ID:wzot/hv40
    貯蓄している間の活動は止まっているため、一種の仮死状態となる。
    その間は空腹にもならないし便意も催さない。
    寿命も取らないので、もし100年貯蓄しても空腹便意加齢などもほぼなく、
    理論上そのままその姿で100年後に行けるのだ。
    しかし、実際にやってる人はおそらくいないかもしれない。


    54 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:27:03.77 ID:wzot/hv40
    教授「・・・であるからして、ここで使う計算式は・・・」

    (この講義だるいなあ・・・この講義が終わるまでの時間を、貯蓄)

    男「・・・。」

    キーンコーンカーンコーン

    教授「ということで今日の講義はこれまで。しっかり復習するように」


    (電車遅いな・・・電車が来るまでの時間を、貯蓄)

    カタンカタンカタンカッタンカッタンカッタン フィープシュー・・・


    (コーヒーが来るまでの時間を、貯蓄)

    店員「お待たせしましたーアイスコーヒーになりまーす」


    55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2013/06/20(木) 17:27:36.70 ID:3u+rLrxg0
    前に寿命の買取の話書いてた?


    61 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:31:44.87 ID:wzot/hv40
    >>55
    「寿命を買い取ってもらった。1年につき、1万円で。」は作者さんは「げんふうけい」さんです。
    私はげんふうけいさんではありません。また、これが初めてのストーリースレです。


    64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2013/06/20(木) 17:34:11.41 ID:3u+rLrxg0
    >>61
    そうそうそれ
    なんか文章と言うか雰囲気が似てる感じがして


    58 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:28:36.95 ID:wzot/hv40
    大学

    ザワザワ

    幼馴染男「なあ、お前何ニヤニヤしてんの?」

    男「え?」

    幼「通帳見ながらニヤニヤしてたら変人にみられるよ?」

    男「そうか?」

    幼「つかお前元々変人だよな、時々旅行してんだろw」

    男「旅行?」

    幼「お前、1日に何度か魂がどっか行ってんだよなー。話しかけても全く反応ないし」

    男「あー・・・」


    59 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:29:30.38 ID:wzot/hv40
    幼「まあ俺らは慣れたけどな!」

    男「ははは・・・ごめんごめん」

    幼「でもよ、講義中に旅行するのはやめとけよ、差されてるのに無視とかないからw」

    男「マジかよ」

    幼「ああマジだよw 一応授業は受けとけ、何かあってからじゃまずいしなw」

    男「了解」


    62 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:32:47.23 ID:wzot/hv40
    コツコツと貯蓄を重ね続け、通帳は2冊目に入り、桁数もなかなかの物になった。
    2冊目に入るとこれまでは貯蓄のみだったのが引き出しが可能になった。

    貯蓄は自分の動きが止まるのに対して、引き出しは自分以外の動きが止まる。
    これまでの貯蓄同様、具体的にも抽象的にも注文できるのだ。


    63 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:34:09.99 ID:wzot/hv40
    通帳が3冊目・4冊目に入るとさらに特典がつき、実行可能な取引が増える。
    時間銀行は、そこに人間さえいれば世界中のどんな場所にでも開ける特殊な銀行であるが、
    時間を操作出来るということは人間の犯罪欲にもつながるため、
    信頼度を測るために最初からフルオプションで提供できないのだ。


    67 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:35:53.50 ID:wzot/hv40
    世界各地を見ても、大通りや目立つ場所にはなく、
    人通りの少ない裏通りや路地の奥などにあることが多いらしい。

    そして、傍から見て時間銀行であると一目で分かられないようになっている。


    68 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:36:31.95 ID:wzot/hv40
    幼「そういやレポートって今日だっけ」

    男「え、うそ」

    幼「前の講義で言ってたろ、来週レポート集めるって」

    男「マジかよ・・・」

    幼「どうせ旅行してたんだろまたww」

    男「量はどれくらい?」

    幼「A4用紙5枚って言ってたっけな」

    男「そうか、・・・ちょっと図書館行ってくるわ」


    70 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:37:12.04 ID:wzot/hv40
    (レポート完成までにかかる時間を、引き出し)

    めまいが晴れ、時計を注視する。
    どうやら針は動いていない。まわりで本を読んでいる人の動きも止まっている。
    きちんと引き出しが行われたようだ。

    今まで事あるごとに時間を貯めてきていたが、そこまで長い時間は貯まっていないだろう。
    もってくれている間に、急いでレポートを仕上げよう。


    71 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:38:11.05 ID:wzot/hv40
    男「ふぅー・・・」

    幼「おうおかえり」

    男「あぁただいま」

    幼「結局レポートどうすんだよ」

    男「あぁ・・・カバンの奥に、前に作ったやつ入れてたの忘れてたわ」

    幼「なんだよそれw まぁよかったな、結構単位に響くらしいからこれ」

    男「あ、そうなんだ」

    結構時間は使ってしまったが、なんとかなったみたいだ。
    使った分をまた貯めなければいけないな。
    結構貯蓄効率はいいが、またこんなことが起こると厄介だから講義中の貯蓄はやめておこう。


    74 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:39:34.95 ID:wzot/hv40
    大学の行き帰りの電車の中で合計1時間半は貯まる。
    注文した品の待機で数分。
    好きなテレビ待ちで数十分~2、3時間。

    最低でも2時間は毎日貯まるようだ。

    一気にガツンと貯まるわけじゃなくて小刻みに貯まるから、
    通帳が3冊目に行くのはそう遅くなかった。


    75 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:40:32.50 ID:wzot/hv40
    行員「こちらが新しい通帳になります」

    男「ありがとうございます」

    行員「今日以降、貯蓄・引き出しと借り入れができるようになりましたのでお確かめください」

    行員「借り入れ時の利子は1日複利の16%となります。5日でおよそ倍になりますので慎重にお使いください」

    男「わかりました」


    76 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:41:32.96 ID:wzot/hv40
    借り入れをすると、一時間分借りたら5日間そのままにしてた場合、
    合計約二時間分の時間を返さなければいけない。
    一日で返したとしても利子がついて、10分余計に取られる。
    利子に取られる時間で、他にどれだけのことができるだろうか。
    借り入れるくらいなら、日々寸暇を惜しんで切り詰めて貯蓄していった方が何倍もましだと考えた。


    77 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:42:29.08 ID:wzot/hv40
    ・・・この頃から徐々に時間感覚がずれてきた。
    暇でも普通に過ごせば24時間だが、
    いらない時間をすべて貯蓄に回すと20時間を切る日も出てくる。
    貯蓄に回した時間の間は空腹も進まないし疲労もたまらないから、
    夜の12時になってもあまり眠くならない。
    睡眠周期がずれ、朝の二度寝で少し引き出すことも増えてきたくらいだ。


    80 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:43:44.15 ID:wzot/hv40
    土日は遊びに行くことはせず、
    足りなくなった睡眠を補い、他の余った時間は貯蓄に回した。
    最近ゲームや趣味に費やす時間も、心なしか削ってしまっているような気がする。

    飛ばした時間分の疲労は蓄積されないため、
    もし朝から夜まで全部貯めたら、眠くもないのに就寝の時間となってしまう。
    今はそこまで極端なことはしていないが、最近の生活サイクルはそれにどんどん近付いてしまっている。


    82 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:44:59.77 ID:wzot/hv40
    幼「大丈夫かおい」

    男「ん?」

    幼「最近お前元気ねーぞ」

    男「あぁ」

    幼「ちゃんと飯食ってるか?睡眠は足りてんのか?」

    男「気にしなくていいよ、大丈夫だから・・・」


    85 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:46:27.26 ID:wzot/hv40
    度重なる不定期の貯蓄と引き出しで体内時計が狂って、
    いよいよ影響が全身に現れたようだ。

    表情は死人さながら、食事風景は火が消えたように悲しそうに、
    後姿は生きる希望を失っているかのように人々の目に映っている。


    87 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:47:26.28 ID:wzot/hv40
    そろそろ本当にダメになってしまう前に、
    今までに貯めた時間でしっかりと休養を取ろう。
    これまで隙さえ見つければ貯めてきたから、
    おそらく十分すぎるほどに時間は残っている。
    ここできちんと休んでおけばきっと今よりはよくなるはずだ。

    (疲労が抜けきるまでに必要な休養の時間を、引き出し)

    念じると同時にベッドに倒れこむと、そのまま眠りについた。


    89 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:49:06.50 ID:wzot/hv40
    ――しばらくして目が覚めると、血の流れや体の重みで、
    直感的にかなり長い間寝ていたと感じた。

    「・・・様、只今口座から23時間31分06秒引き出しが完了しました」

    23時間31分。ほぼ丸一日寝てしまっていたらしい。
    しかし、体は結構軽くなった。
    ずいぶん長いこと寝ていたせいか、喉がすっかりカラカラになっていた。
    台所でコップ一杯の水を飲み干し、鏡で自分の顔を見てみた。
    寝る前と比べて、随分クマが改善されている。


    91 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:50:51.26 ID:wzot/hv40
    さすがに最近は神経質になりすぎていた。
    何かって言うとすぐ貯蓄に回そうとして、常に気が立っていた。
    ちょっとゆとりをもって生活しよう、そう決めた。


    92 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:51:28.72 ID:wzot/hv40
    最初は貯蓄に慣れていたせいで体内時計は狂い、体力も落ちていたが、
    徐々に徐々に元通りの生活に戻していくと、体調も体内時計も整っていった。

    自分から貯蓄する回数はどんどん減り、引き出すことも少なくなっていった。

    そんな矢先、貯蓄していた時間の利息が付き、通帳がいっぱいとなり、
    次の新しい通帳に変えることとなった。


    93 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:52:19.90 ID:wzot/hv40
    行員「通帳が4冊目となりましたので、今日から売却が可能となりました」

    男「売却?」

    行員「はい。あなたの余った時間を売却出来ます。」

    男「なるほど」

    行員「換金レートの詳細はこちらに記してありますので、必ず目を通しておいてください」

    男「わかりました」


    94 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:53:01.12 ID:wzot/hv40
    家に帰り、早速売却を試そうとさっき銀行でもらった紙を手に取った。

    ・換金はこれまでの貯蓄・引き出し・借り入れの際に使用した手段と同等の方法で可能。
    ・1分未満の換金は原則として応じない。最低1分単位での換金とする。
    ・換金の際は、分未満の秒数はそのまま口座に残り、換金されないものとする。

    ・一度の換金のレートは下記の通り。
    ―分単位―
    ~10分以内の換金は1分あたり1円。
    ~60分以内の換金は1分あたり3円。
    ―時間単位―
    ~3時間以内の換金は1時間あたり300円。
    ~10時間以内の換金は1時間あたり500円。
    ~23時間以内の換金は1時間あたり700円。
    それ以上は1日あたり2万円とする。(※この計算式は一括払いに適用される。分割・ローンは適用外)

    趣旨としてはこういうことらしい。


    96 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:54:24.06 ID:wzot/hv40
    男「1日丸々売ったら2万か・・・」

    明後日まで大学は休みだし、手こずるような課題やレポートはない。
    せっかく手に入れた特典だ。試してみよう。

    (10時間、売却)


    ・・・


    「・・・様、只今口座から10時間が売却され、5000円に換金されました」


    財布を確かめると、1000円札だらけの俺の財布に5000円札が1枚増えている。
    透かしもきちんと入っている。
    どうやら本当に換金ができるようだ。


    97 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:55:31.77 ID:wzot/hv40
    最近少し生活が苦しかっただけに、これは嬉しい。
    あの日銀行に寄って本当によかった。
    こんないいものを知らない人間は人生を損している。

    この時、腹の底から笑いがこみあげ、世界を手に入れたかのような錯覚に陥っていた。


    98以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 17:55:51.49 ID:D/WuM9D90
    金まで絡んだらいよいよ生活ぶっこわれるな


    99以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 17:56:13.68 ID:LxBoudYY0
    バットエンドの予感


    100 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:56:23.30 ID:wzot/hv40
    友也「おいおい良いのかよほんとに」

    男「いいんだよ、今日は俺のおごりな!」

    友也「マジでー!」

    男「最近心配かけて悪かったな、今夜は何でも頼んでいいぞー!」

    友介「無理してんじゃねえのか~」

    男「そんなことないって!今までのお礼とお詫びも兼ねてんだよ」

    友也「じゃあお言葉に甘えて・・・俺はリブロースステーキ~!!」

    友子「だったら私はー、フルーツの盛り合わせー!」


    (足りなくなったら、また売ればいいんだ。)

    (時給950円なんてばかばかしすぎるよな、一瞬で日給2万だもん)

    (この通帳さえあれば俺は金と時間を自由に操れるんだ)


    103 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:58:20.59 ID:wzot/hv40
    数日後、バイトをやめた。
    安い時給で肉体労働でこき使われるバイトより、
    一瞬のめまいから復帰すれば2万が財布に入っていることのほうが、
    常時金欠気味の大学生にとっては魅力的だったからだ。

    大学と家の往復で、それ以外の余計な時間があればそれを全部貯蓄に回し、
    24時間溜めたら一気に売るというサイクルを繰り返していた。


    105 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 17:59:32.62 ID:wzot/hv40
    待ち合わせ時間になっても相手が来ない?
    立ちっぱなしは疲れる?
    いつまで待てばいいのか分からない?

    そんな時は一瞬目をつぶって念じれば。


    友也「はあっ、はあっ・・・ごめん・・・!待った?」

    男「いや?全然"待ってないよ"」


    この通り。


    106 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:00:08.66 ID:wzot/hv40
    友介「悪い!金貸してくれ!」

    男「しょうがねーな~。ほらよ」

    友介「あざーっす!!」

    友介「やっぱりこういう時には頼りになるよ!ありがとな!今度返すよ!」


    (足りなくなったら、また、売ればいい)

    (俺は無限に金を生み出せるから心配なんていらない)


    107 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:00:52.66 ID:wzot/hv40
    派手な出し入れで次の通帳に行くのには時間はかからなかった。
    俺は軽い足取りで銀行へと向かった。

    行員「いらっしゃいませ」

    男「一杯になったんで通帳の更新お願いします」

    行員「かしこまりました。・・・これで5冊目ですね。」

    男「はい」

    行員「今日から購入の取引が可能となりました。詳しくはこちらの冊子にありますのでどうぞ」

    男「ありがとうございます」


    108 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:01:28.14 ID:wzot/hv40
    男「えーと?・・・"購入は他の取引と同様の手段で行えるが、購入の取引は売却取引の際の換金レートの10倍"・・・」

    男「え・・・じゅ、十倍??!!!」

    行員「はい。その通りでございます」

    男「10倍って・・高すぎませんか?・・・24時間で・・・20万・・・!?」

    行員「もちろん、購入の取引は権利であって義務ではありません。
    計画的なご利用を心掛けていれば、その取引も必要ありませんよ」

    男「そう・・・ですね・・・」


    110 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:02:00.56 ID:wzot/hv40
    購入手続きは売却とほぼ同じだが、交換レートが売却のレートの10倍。
    24時間を買おうとしたら20万円もかかる。
    足元見やがって、ふざけんな!

    計画的に使ってればいいんだろ。ケイカクテキにやりゃ。

    道端の小石を蹴りながら家へと向かい、
    玄関を開けると近くにカバンを投げ捨て、そのままベッドに横になった。


    114 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:03:25.69 ID:wzot/hv40
    とうとう明日から夏休みが来る。
    俺が入っているサークルは人数が少なく、
    半ば開店休業みたいなところがある。
    来たければいつでも、と言うスタンスで、
    皆勤しても、全部休んでもどっちでもいい。

    俺にとっては待ちかねた夏休みだ。

    俺はこの夏休みを、貯蓄と、売却に回す。


    115 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:04:42.86 ID:wzot/hv40
    一瞬のめまいで時空をそのまま越えるから、
    疲労や空腹などの肉体的ストレスはほぼない。
    以前に丸1日貯蓄したこともあるので、それは身をもって分かっている。

    貯蓄の途中で友人や家族に心配されないように、あらかじめ夏休み中は旅行に行くと伝えた。
    そして夏休みを利用して、次の9月の最初の授業が始まる4時間32分14秒前までの時間をすべて貯蓄に回した。


    117 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:06:40.09 ID:wzot/hv40
    男「さすがに1か月半まとめてやるとなんとなく違和感があるな・・・」

    開いたケータイの9月2日と言う表示を見ながら、
    首をコキコキ鳴らし大きなため息をつく。

    一か月半前、大学から帰った後すぐに貯蓄したから食事がまだだった。
    腹が減ったことに気付いたので、この1分でパンパンに膨らんだ財布を手に、
    早朝4時過ぎの薄明りの街の中、近くのコンビニに買い出しに向かう。


    120 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:07:52.99 ID:wzot/hv40
    男「」

    A「なあなあ」

    男「はい。・・・ごふうっっっ!!!???」

    コンビニへと向かう道の途中で後ろから呼びかけられ、
    その振り向きざまに誰かに腹を思い切りど突かれた。
    強烈な痛みが広がり、一瞬で息が出来なくなる。

    男「うぅ・・・・っっ・・・・くっ・・・ふっ・・・ぅ・・・・」

    A「なあなあ、ちょっと金貸してくれよ」

    男「ふ・・・・っ・・・・はっ・・・・・はぁ・・・・・はぁっ・・・!!!」


    息をしようとすると激痛に襲われる。
    しかし死にたくない一心で微量であっても空気を吸おうとした。


    121 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:08:39.93 ID:wzot/hv40
    B「俺達も手荒な事したくないからさー、黙って財布渡せよ」

    男「い・・・・っ・・・・・・や・・・・・だ・・・・っ・・・・」

    C「えー?何言ってるか全然聞こえないんですけどーー???」

    呼吸するのに精一杯で言葉が口から出ない。
    今できるのは、必死の表情で相手の顔をにらみつけることだけだった。


    123 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:09:34.95 ID:wzot/hv40
    C「断らないってことはー、多分いいってことっしょ!じゃあこれはもーらいーー!!!」

    男「・・・っ!!」

    C「・・・うわwwwこいつめっちゃ金持ってるぜwwww」

    B「おいおいマジかよwwww」

    A「お前こんな大金もって歩いてたら変な人に襲われちゃうよー?」

    C「変な人に襲われないように俺たちが預かっといてやるよww」

    B「俺達最高じゃんwwめっちゃ人助けしてんじゃんwww」

    C「じゃーこの金は全部使い切ってから返してやるからそれまで待ってなww兄ちゃんwwww」

    A「せいぜい変な人に襲われないように気を付けて帰れよーーwwww」

    ABC「じゃーなーwww」


    高笑いしながら男たちは財布を奪い、走って行った。


    126 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:11:02.95 ID:wzot/hv40
    不運にも、ATMのカードと手持ちの金をごっそり全部持っていかれた。
    コンビニで買い物をしたついでにATMに預けようとしたのが見事なまでに裏目に出てしまった。

    貯蓄する時、一括で売却すると高値で売れるという仕組みを利用し、
    通帳の時間と合わせて24時間の倍数にするために、
    授業開始の4時間32分14秒前までという半端な時間を狙って設定した。
    結果、残高はちょうど24時間の倍数になり、ここで得た時間とこれまでに貯蓄していた時間は全部売却。

    今、売却で得た金と生活費その他ひっくるめた、いわば金だけじゃない全財産を奪われたのだ。


    129 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:11:59.92 ID:wzot/hv40
    財布には定期をはじめ、あらゆるカードが入っていた。
    ここで財布を取られると目の前の飯にすらありつけなくなる。

    激痛の残る腹を押さえながら男たちの後を追ったが、
    大通りに出たところで完全に姿を見失った。


    133 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:13:17.24 ID:wzot/hv40
    全財産を失い、通帳の残り時間は0秒。
    換金しようにもその時間がない。
    もし1分あっても1円しか手に入らない。

    しかも今日は家賃の支払期日だ。
    最低でも大学までの往復の切符代と家賃・朝昼食代で6万円は必要になる。

    6万円――。

    時間にして丸3日分の値段となる。

    徒歩での通学時間や朝昼の食事時間、支度やその他で削がれ、
    今からだとどんなに多く見積もっても2時間しか時間がない。

    たったの600円では到底足りない。


    135 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:14:25.10 ID:wzot/hv40
    男「・・・」

    男「・・・っ!!」

    (3日分の時間を借り入れし、その時間を、売却)


    「・・・様、3日分、72時間の借り入れと売却が完了しました」


    さっきまで何もなかったポケットには、6万円が入っている。
    金を手にした安堵と、借り入れに手を出した後悔が胸の中で渦巻く。


    136 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:15:27.75 ID:wzot/hv40
    東の空がだんだん明るくなってきた。

    殴られた腹が痛むが、それはもう問題ではない。
    コンビニには寄らず、家へと真っ直ぐに引き返した。


    139 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:16:28.46 ID:wzot/hv40
    大家「はい確かに」

    男「じゃあまた今月もよろしくお願いします」

    大家「よろしく」


    学校から帰り、その足で大家さんに無事家賃を払い終えた。
    今まで借り入れをしたことがなかったから不安だったが、
    今となってはもう仕方がない。切り詰めて返済していこう。


    141 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:17:55.00 ID:wzot/hv40
    1日複利16%、5日で倍。
    借りた時間は3日。
    毎日1日返済を続ければ利子含め5日で返せる。
    単純計算だが、丸5日時間を預ければそれで返済が終わる。

    そう思ったが、今日で夏休みが終わり学校が始まる。
    講義の課題もあるし単位のこともある。

    5日間抜けがら状態になるのは無理がある。
    休日に一気に返して、平日は毎日少しずつ返済していこう。


    142 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:19:05.22 ID:wzot/hv40
    友介「またで悪いんだけど、金貸してくれない?」

    男「あ・・・ごめん、俺も今金なくて」

    友介「そこをなんとか!」

    男「・・・悪い」

    友介「そっか・・・こっちこそごめんな」

    男「あぁ・・・」


    143 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:20:31.06 ID:wzot/hv40
    友也「あのさ、今度飲みに行こうよ!」

    友子「私も男くんと飲みに行きたいな~」

    男「あー、ちょっと・・・最近金欠でさ」

    友也「一杯だけだからさ!な!」

    友子「うん!」

    男「・・・ごめん」

    友也「・・・おう、分かった」



    友也「チッ なんだよあいつ、せっかく誘ってんのによ」

    友子「またパフェ食べられると思ったのになー」


    144 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:21:32.46 ID:wzot/hv40
    人付き合いの悪くなった俺はどんどん孤立していった。

    飯代を得るために、
    切符代を得るために、
    返済に充てるために、時間を切り詰めた。

    人に奢る金も、他人に割く時間も、頼れる親も、今の俺にはない。

    金を得るために時間を作り、時間を得るために睡眠を削った結果、
    授業の内容も入らなくなり、提出状況も悪くなり、成績はみるみる落ちていった。

    あまり行かなくても問題なかったとはいえ、サークルにも全く顔を出さなくなっていた。


    145 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:22:31.08 ID:wzot/hv40
    夏前までは売却で得られる金の魅力に憑かれ、
    さらにATMから連日引き出し、友人にばらまいていた。
    ヤンキーに絡まれ全財産を奪われたあの日まで、
    引き出し引き出し差し引かれ、ATMに残った残高24円がまずいと思わなかった。
    1日を売れば2万円が手に入るし、
    景気よく振る舞えば人脈も広がり好感度も上がる。

    しかし、金が尽きた俺に残されたのは、
    見せかけでもろい人脈と時間に追われる借金生活だった。

    時間を操っていたつもりが、いつの間にか時間に操られてしまっていた。


    146 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:23:25.70 ID:wzot/hv40
    講義があってすぐに返済はできなかったので、
    毎日の利子だけでも返して、雪だるま式に増えるのだけは防ごうとした。

    だが、1日当たり毎日12時間は返さないと利子が増えるのに、
    大学の講義、レポートのせいでどうしても12時間が作れなかった。


    148 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:24:33.43 ID:wzot/hv40
    幼「おいおい大丈夫か?」

    男「あ・・・?」

    幼「お前体調悪そうだぞ?働きすぎなんじゃねえのか?」

    男「・・・」

    幼「とりあえずこれやるから食え。疲れた時は糖分が一番だぞ」

    男「あぁ・・・」

    幼「じゃあ俺はこの後のゼミに出るから。元気出せよ、男!」


    もらった小さい袋の封を開け、口に入れる。
    ・・・久々のチョコレートの味。
    ごくありふれた味だったが、とても甘くおいしく感じられた。

    疲れていたからなのか、それとも。


    150 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:26:09.65 ID:wzot/hv40
    この頃になると、とうとう借金が手に負えなくなってきた。
    通帳は返済で減った額と利子で膨らんだ額が連なり、
    どんどん雪玉は大玉となり転げ始めた。

    チッチッチッ カチッ ボーン ボーン ボーン

    「負債が増大しています。至急返済してください」

    深夜12時、利子が増えると不定期に例の声で脳内に響く。
    最近はずっとそうだ。毎日毎日この声が聞こえる。
    返したいのは山々だが、返す力はもう、ない。


    151 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:27:01.13 ID:wzot/hv40
    行員「・・・様、こちらが新しい通帳です」

    男「はい」

    行員「返済の方が少々滞ってらっしゃるようですが・・・」

    男「必ず・・・返しますので・・・」

    行員「そうですか」

    男「はい」

    行員「では、また通帳がいっぱいになりましたらこちらへお越しください」

    男「・・・はい」


    152 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:28:13.33 ID:wzot/hv40
    借り入れ時間が合計130時間になった。
    最初は3日間だったのに利子が膨らみ、今ではそれが約2倍になった。

    1日の利子だけで21時間も借金が増える。
    あと1日経つと利子だけで24時間増えて丸1日を返済に充てても追いつかなくなる。

    もう、だめだ。

    終わりだ。


    158 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:30:50.77 ID:wzot/hv40
    廃屋

    幼女「」

    男「・・・もしもし」

    母「はい、高宮でございます」

    男「おたくの娘さんを預かった。助けたければ3000万円用意しろ。

    時間は6時間以内、場所は中央公園の風車そばのトイレ横のゴミ箱だ。警察に言ったら娘を殺す」ブツッ

    母「もしもし・・・?もしもし・・・!?」


    160 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:32:05.17 ID:wzot/hv40
    幼女「んー、んー!」

    男「うるせえ!おとなしくしろ!!」

    幼女「!!・・・・・・」

    男(悪いな、本当なら君を巻き込むことはなかったんだ)

    男「・・・・・・もしもし」

    母「もっ、もしもし?!」

    男「金は用意できたか」

    母「もうすぐで用意できます・・・!娘は、娘は無事なんでしょうか!?」

    男「あぁ。今は、な」

    母「娘の声をお聞かせ願えないでしょうか」

    男「・・・3時間後に電話する。それまでに3000万用意しておけ」ブツッ

    男(俺には時間がないんだ・・・!)


    162 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:33:06.84 ID:wzot/hv40
    母「もしもし」

    男「金は用意できたか」

    母「用意できました。今中央公園に向かっています」

    男「場所は中央公園の風車のそばのトイレ横のゴミ箱だ。間違えるなよ」

    母「・・はい」

    男「取引が無事に行われなかった場合、娘は殺す。お前ひとりで来い。警察を連れてきたら娘の命はないと思え」

    母「・・分かりました」

    男「金を受け取ったらすぐに娘は解放すると約束する」

    母「あの・・っ、娘の声をお聞かせいただけ・・・!」ブツッ

    母「・・・っ!!」


    165 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:34:36.79 ID:wzot/hv40
    公園

    キキーッ ガチャ バタンッ

    母「風車のそばの・・・トイレ横の・・・ゴミ箱・・・、あった・・・!」

    母「ここに入れればいいのかしら」

    母「・・・どうか、無事で帰ってきますように・・・!!」ガコン


    男「・・・」


    166 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:35:49.20 ID:wzot/hv40
    廃屋

    幼女「・・・」

    男「おい」

    幼女「?」

    男「お母さん、助けに来てくれたよ」

    幼女「!!」

    男「優しいお母さんでよかったね」

    幼女「・・・っ!!」

    男「これから金を受け取りに行く。・・いきなり乱暴して悪かった。」

    幼女「・・・」


    168 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:36:35.41 ID:wzot/hv40
    男「ロープもきつく締めてしまったね・・今ほどくから」

    幼女「・・・」

    男「息するの辛かっただろう、ごめん」ペリペリ

    幼女「・・・ぷはあっ・・・だれかーーー!!!たすけてーーーー!!!!」

    男「バッ・・・騒ぐんじゃねえ!!」

    通行人「おい、何してるんだ」

    男「くそっ!!」ドンッ

    通行人「痛っ!・・・き、君!大丈夫か!」

    幼女「はい、だいじょうぶです・・」

    通行人「今警察に電話するから!・・・もしもし警察ですか!」


    170 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:37:08.37 ID:wzot/hv40
    男「いきなり騒ぎやがって・・・やっぱり後で解放するべきだったか」

    男「早くいかないと利子が・・・っ?!」

    男「ちっ、何でこんな時に自転車のチェーン切れてんだよ!!!」

    男「こうなったら・・・」ダッ

    男「0時までに・・ハァ・・・間に合うか・・・っ?!」


    171 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:38:02.48 ID:wzot/hv40
    公園

    男「」

    男「ハァハァ」

    男「・・・あった」ガコッ

    男「はは、3000万だ・・・!これで買える・・・!!」

    男「これだけの金があれば、借りてた時間分の時間が買えるぜ・・・」

    警官1「おい!いたぞ!」

    警官2「あいつだ!!」

    警官3「逃がすなー!!」

    男「ッッ・・!!くそっ・・・こんなところで捕まってたまるかーー!!!!」ダッ


    172以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:38:47.73 ID:2FO3GIge0
    捕まっても時間貯蓄できるよね


    173以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:39:06.21 ID:iyUh791j0
    >>172
    天才


    176以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:39:42.77 ID:5mCzKFrX0
    >>172
    仮死状態になったら一月ぐらいで埋葬されるだろ


    175 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:39:28.44 ID:wzot/hv40
    空き地

    男「ここまで・・・くればハァ・・・大丈夫だろう・・ハァ」

    男「・・・」

    (3000万円で可能なだけ時間を購入、購入した時間を借り入れ時間に、返済)


    「・・・様、購入、返済手続完了しました」


    男「やった・・・やったぞ」

    男「これで・・・借金とも・・・おさらばだ!!!!!」


    確かめると、アタッシュケースの中の3000万円は、なくなっていた。


    177 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:40:37.69 ID:wzot/hv40
    覆面していたから顔は見られていないし、
    まともに俺の声を聴いたのはあの女の子くらいだろう。
    取引の公園も自宅と大学から離れたゆかりのない場所を選んだ。
    俺に警察がたどり着くことはないはず。

    防犯カメラに映っていないだろうけど、急いで家に帰ろう。
    ここで捕まったら全部が無駄になる。

    足早にその場を後にした。


    179 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:41:34.79 ID:wzot/hv40
    家にたどり着くと黒ずくめの服を脱ぎ、Tシャツ半ズボンになる。
    冷蔵庫から出したとっておきのビールをかっと傾け、歓喜のうめき声をあげる。

    これでようやく時間から解放される。
    毎日毎日時間に縛られ続けてきた生活も、今日で終わるんだ。

    犯罪に手を染めた罪悪感よりも、地獄から脱出できた解放感にあふれていた。

    「もう時間銀行を使うのはやめよう。またバイトしてコツコツ稼ぐんだ」

    そう固く心に決心した。


    182 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:42:57.53 ID:wzot/hv40
    1か月後――。

    あれからすぐに新しいバイトを探し、大学が終わったらそこで働くようになった。
    奨学金や保障制度を申請したことで学費は免除、家賃は安くなり、
    バイト代が自由に使えるようになったことで毎日の飯にも困らなくなった。

    新しい友人もできて今は今で充実した日々を送っている。
    ちょっとでも時間があると、何かにつけて貯蓄していたせいで、
    最初は待つことをうっとうしく感じていたが、それも最近はずいぶん楽になってきた。


    183 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:44:02.06 ID:wzot/hv40
    友太「また今度飲みに行こうなー」

    男「おう~」

    友太「じゃー明日学校でー」

    男「おうお休み~」

    男「・・・ふー疲れた~ただいまー」

    靴を脱ぐと、廊下に無造作に次々と服を脱ぎ捨て、
    なだれ込むようにベッドに寝そべった。


    186 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:48:03.55 ID:wzot/hv40
    男「明日は土曜かー・・講義もないし、昼まで寝られるな」

    パチン

    男「おやすみー」

    男「・・・」

    男「・・・スー・・・スー」



    チッチッチッ カチッ ボーン ボーン ボーン





    「負債が増大しています。至急返済してください」



    ―完―


    189以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:49:21.72 ID:LxBoudYY0
    ドラえもんのバイバインを思い出した


    190以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:49:21.83 ID:eENPfUo00



    191以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:49:39.25 ID:qyscy76U0
    誘拐でやたら飛躍したと思ったら弱いオチだな


    193以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:50:41.71 ID:iyUh791j0
    3000万じゃ返しきれてなかったの?


    198 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:52:20.03 ID:wzot/hv40
    つたない文章でしたが最後までお読みいただきましてありがとうございました。

    質問文句クレーム悪口その他ありましたらどうぞお願いします。


    201 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:55:55.02 ID:wzot/hv40
    解説

    作中での時間を止めるというのは
    「貯蓄した時間を引き出して、自分以外の人の時間を止めて自分だけが動く」
    と言うことで、金を奪われたシーンや返済に追われるシーンではすでに貯蓄がなく、
    余った時間は全て返済に充てていたため、時間は止められなかったということです。


    204以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:59:05.22 ID:iyUh791j0
    >>201
    それはわかる
    負債返しきれてなかったのはなんで?
    20万で24時間分
    3000万で150日分
    そんなに利子が膨らんでたのか?


    203 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 18:58:56.00 ID:wzot/hv40
    ラストは、深夜正午を回らなければ3000万円で買い戻せ、
    これまでの借金はチャラになりましたが、
    正午を回ったので利子がつき、3000万円では足りなくなりました。

    詳細がぬるいと言うのは、状況を決めすぎて1本ルートのイメージしか出来ないのを避け、
    あえてあやふやにして読者の方それぞれに自由なイメージを膨らませてもらうことを目指したものです。
    結果的に実を結ばなかったという事態になってしまったようなのでお詫びいたします。


    207以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 18:59:50.06 ID:iyUh791j0
    >>203
    複利がヤバイ



    211 ◆I5tN3UGS2V.m []:2013/06/20(木) 19:04:57.26 ID:wzot/hv40
    イメージが浮かんでもそれを適切な表現で形にする力が足りませんでしたね・・
    初めてのことで勝手がわからなかったのも一つの原因です。

    皆さんにお楽しみいただけるような文章を書けるよう、修行してきます!


    213以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 19:05:46.66 ID:EiTeNCS30

    こういう話嫌いじゃないよ


    214以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2013/06/20(木) 19:05:52.38 ID:5mCzKFrX0
    アイデアは面白かったから期待してる



    http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1371714579/


    切ない夏を感じる画像2013

    【画像】リアルミカサ見つけたったwwwwwwwwwww

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    コメント

    無名の信者 2013年06月20日 19:20 ID:YE8l1IEA0 ▼このコメントに返信

    タイトルみて、げんふうけいさんかと

    無名の信者 2013年06月20日 19:26 ID:iIpbdeePO ▼このコメントに返信

    げんふうけいさんのかと… 面白いけど悲しいってか虚しいってか

    名無しさん 2013年06月20日 19:29 ID:Fh.9gZPZ0 ▼このコメントに返信

    俺はタイトルでミヒャエルエンデのモモかと思った

    名無しさん 2013年06月20日 19:35 ID:ymVBkY6V0 ▼このコメントに返信

    預けて時間銀行ってラノベのパクリやろ
    糞が!

    名無しさん 2013年06月20日 19:37 ID:Pc4L4Yuw0 ▼このコメントに返信

    俺もモモかとおもた

    名無しさん 2013年06月20日 19:49 ID:jMDc3kb20 ▼このコメントに返信

    モモは美少女としてリメイクすれば現代アニメーションの金字塔になる

    無名の信者 2013年06月20日 19:55 ID:ktwfBJ.40 ▼このコメントに返信

    げんふうけいさんだっけ?
    あの時間売る話の人
    あの人かと思った

    名無しさん 2013年06月20日 20:00 ID:ydEzyO4D0 ▼このコメントに返信

    俺はモモだと思った。

    名無しさん 2013年06月20日 20:01 ID:cNfYxPQD0 ▼このコメントに返信

    モモじゃないのか

    10 名無しさん 2013年06月20日 20:12 ID:L6oB2a520 ▼このコメントに返信

    エンデ乙・・・と思ったら言われまくってて安心したw

    11 名無しさん 2013年06月20日 20:13 ID:I6Dalp3n0 ▼このコメントに返信

    安定のモモスレ
    作中の飲むチョコレートやら焼きたてのパンとかおいしそうだったなぁ

    12 名無しさん 2013年06月20日 20:20 ID:i8MLxYPo0 ▼このコメントに返信

    こういうの好きだわ

    13 名無しさん 2013年06月20日 20:53 ID:C8JrwXIg0 ▼このコメントに返信

    モモかとおもた
    財布盗まれるとか間抜けすぎだろ

    14 名無しさん 2013年06月20日 20:59 ID:K0xBvYvT0 ▼このコメントに返信

    何でカツアゲの時に時間を買って停止しなかったの?

    15 無名の信者 2013年06月20日 21:04 ID:MG7qa1kyO ▼このコメントに返信

    結構面白かったけどな

    時間売ってウハウハなはずが、金を作ってまで時間を買うようになったりとか

    16 無名の信者 2013年06月20日 21:39 ID:sZcgPsD50 ▼このコメントに返信

    モモ乙

    17 名無しさん 2013年06月20日 21:46 ID:CN2GylJH0 ▼このコメントに返信

    不良に絡まれた時に10分借りて即使って不良どもから財布を取り返し、残りの時間で逃げたらダメなのか?

    18 名無しさん 2013年06月20日 21:48 ID:38XO6fH.0 ▼このコメントに返信

    タイトルで モモ余裕と思ったら違った。コメ欄見てホッとした^^

    19 名無しさん 2013年06月20日 22:21 ID:JSx48fNd0 ▼このコメントに返信

    モモ…みんなそう思ったのねwwww
    ワイもwwwwwワイもwwwwww

    20 名無しさん 2013年06月20日 22:29 ID:opxNqsbp0 ▼このコメントに返信

    もっと構想を練り直して新しいものを書こうと思います。
    一部致命的なミスを犯しました。申し訳ありません。
    支離滅裂でしたが最後までお読みいただきありがとうございました。
    重ねて言いますが、私はげんふうけいさんではなく全くの別人です。
    そのまま闇に葬られてもしょうがないと思っていましたが、管理人さん、まとめサイトに載せていただきありがとうございます。

    21 無名の信者 2013年06月20日 23:41 ID:FyvIaf270 ▼このコメントに返信

    オチから話を作れよw

    22 無名の信者 2013年06月21日 18:45 ID:2JOCSOpk0 ▼このコメントに返信

    灰色の男たち

    23 名無しさん 2013年06月22日 09:02 ID:zqCD8w5C0 ▼このコメントに返信

    モモちゃうかった・・・

    

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