唯「澪ちゃん、そこの手榴弾取ってー」

    1名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 10:17:19.33 ID:IgrAwi0h0
    澪「ほら」ポイッ

    唯「あわゎ」アセアセ

    律「…」プカー

    澪「ゴホッ!律!タバコ吸うなよ」

    律「…んー?…なんか昔思い出してさー悪い悪 い」ゲシゲシ

    澪「梓が死んで10年か…」

    律「私達も歳食ったなぁー…」

    唯「…ムギちゃんは?」

    澪「会議だってさ」

    律「流石市長、忙しいみたいだな」

    唯「和ちゃんがいれば少しは忙しくなくなって たかも…」

    澪「もう和はいないだろ…」

    律「梓もな…」

    唯「…」

    記者「あのー…」

    律「…ん?なに?」

    記者「今ですねー、生存者の方達からインタビューという話を伺ってまして………………………

    これは、world war Z を生き延びた人間達の回顧録である。


    3名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 10:27:37.66 ID:IgrAwi0h0
    【10年前】

    唯「あわわゎ!遅刻しちゃうよー!!」

    ガチャ
    憂「お姉ちゃん大丈夫?」ゴホゴホ

    唯「憂は寝てなきゃ駄目だよ」

    憂「うん、ごめんねお姉ちゃん…」

    唯「やっぱり今の時期に中国に家族旅行に行くのはやめといた方がよかったんだよ!大気汚染が致死量レベルなんだから!」

    憂「…ゴホッ!」

    唯「ほらほら憂は寝てて」

    憂「ごめんねお姉ちゃん起こせなくて…」ゴホゴホ

    唯「大丈夫だよーちゃんと皆にはメールしとくから」フンス!

    ガシャーン!
    憂「…?」
    唯「お父さんとお母さんの部屋からだ」

    テレビ『現在流行しているこの風邪に似た症状の…
    


    6名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 10:38:37.12 ID:IgrAwi0h0
    テレビ『発生源は中国と見られ…

    憂「お父さんもお母さんも旅行から帰って来てから寝込んでたから…ちょっと様子見てくるね」ゴホゴホ

    唯「ダメだよ!憂はちゃんと寝てなきゃ!私が見てくるから」

    憂「でもお姉ちゃんみんなと約束が…」ゴホッ

    唯「遅れるってメールしたから大丈夫だよ~」

    テレビ『…中国全土の感染率は63%を越え、現在国家非常事態宣言が…


    唯「お父さんお母さん入るよー」コンコン
    ガチャ

    ドアを開けた瞬間に飛び出して来た父親に体ごと体当たりされて唯は吹き飛ばされ床に倒れ込んだ。


    9名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 10:51:33.94 ID:IgrAwi0h0
    お腹に肘の一撃を受けたせいで数秒息ができなくなったが目の前の父親に何か異常事態が起きてることを察した唯は素早く起き上がって平静を装った。

    唯「お、お父さん?突っ込み激しすぎるよー」

    唯パパ「…」

    唯「吉本か!」ズビシ

    唯パパ「…」

    渾身の力を込めたツッコミもスルーされた。

    唯「お父さん具合悪いんでしょ?寝てなきゃ…
    唯パパ「アァァアア!!」
    ガシッ!

    物凄い力で両肩を掴まれてそのまま床に叩きつけられ父親の顔が眼前に迫った時唯は見た、父親の目が正気では無くなっている事を。

    唯ママ「…」

    そして母親も。

    憂「お姉ちゃん…?」ゴホゴホ


    10名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 11:02:08.29 ID:IgrAwi0h0
    唯パパ「アァァアアガァア!」

    涎を撒き散らしながら唯の喉元に食らいつこうとしている父親を唯は懸命に力を込めて父親の頭を掴み振りほどこうともがく。

    唯「お父さん!!お母さん助けて!!」

    唯ママ「…」

    その声に反応したのか唯ママはゆっくり唯の方に歩いてきた。

    トントン
    憂「お姉ちゃん?大丈夫?」ゴホゴホ

    唯ママ「!」

    階段を上ってきた憂に狙いを定めたのか唯ママは動物のような動きで走りながら唯の横を通過し憂に掴みかかった。

    憂「…え?」

    唯ママと憂は揉み合ったまま階段を転げ落ちていった。


    12名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 11:12:49.90 ID:IgrAwi0h0
    普段は頼りっぱなしだが、妹の危険にはめっぽう頼りにならない唯である
    上にのしかかっている父親をまず膝で思いっきり蹴り上げた後、膝を畳み逆立ちする形で両足で蹴り上げた。
    そうすることによって、肩を掴んでいた父親の手が唯の肩から外れた。

    ……………………………………

    記者「!?まってくださいよそれって『対Z格闘術』の基本形ですよね!?」

    律「そんな大層な名前付いてたのか?アレって」

    記者「そりゃあそうですよ!対Z格闘術の有効性は…
    澪「インタビューは?」

    記者「あ、あぁ失礼しましたつい興奮して…」

    ………
    …………
    ……………


    14名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 11:27:59.98 ID:IgrAwi0h0
    唯「憂ー!!」

    階段を転げ落ちていった憂と唯ママを心配しすぐさま二人が落ちていった階段に走る。

    唯「憂だいじょう!…ぶ…」

    そこには折り重なるように倒れている二人の姿があった、母親は頭を強打したのか血と何か肌色の液体を頭から大量に流してピクリともしない。

    唯「憂!憂!」

    憂「…お姉ちゃん…」

    そのまま憂を抱きしめあげると、引きずるような形で家の出口に走る
    普段はギー太より重い物は決して持てない唯だがこのときばかりは違った。

    憂「お姉ちゃん…お母さんが…」

    唯「大丈夫だから!」
    全然大丈夫ではないにも関わらず、口からは自然に妹を安心させようとする言葉が出てきて涙があふれてきた。

    息を切らせながら家の出口を開けた瞬間
    ガシャーン!!
    前の道路で車が他の車と正面衝突し火柱があがった。

    唯「なんなの…これ…」


    至る所で火柱があがっていた。


    17名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 12:09:32.89 ID:pjjQRiZp0
    ピロリロン
    律「ん?唯からだ…『ちょっと遅れます』か、まーた寝坊したな」

    いつものことだ、こうなることを予想して自分もまだ準備してない!てか寝坊した!律は胸をそらして笑った。

    聡「ねえちゃんうるさい!」

    隣で我が弟が喚いているが気にしないで16ビートでも叩いてみる
    チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ

    ガチャ
    聡「だからねえちゃんうるさい!」

    律「カルシウム足りないなー聡は」

    聡「ねえちゃんは額の毛が足りないよ!」

    律「」

    姉弟で言い合っていたら近くで爆発音が聞こえ、姉弟で顔を見合わせた。

    聡「ねえちゃんだろ」
    律「なんでだよ!」

    二人で部屋の窓から外を見てみたところ、町の至る所からただならない緊急事態を予想させるほどの火の手があがっていた。

    律「なんだこりゃ」
    聡「火事だ!火事だ!」

    その時、家の入り口のドアから体当たりされるような物凄い音が響いた。


    19名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 12:19:47.66 ID:pjjQRiZp0
    律「聡、お客さんだ」

    聡「姉ちゃんが出ろよ」

    律は嫌な予感がしたので窓から自分の家の入り口に誰が来ているのか見てみたところ
    何人もの人間が入り口のドアに群がっていた。

    律「聡、何人もいるぞ?」

    聡「うん、いるね…」

    姉弟はここに至り自分達が危機的状況に置かれてるのを理解し、互いに目を見合わせて頷いてから律はスティック、聡はバットを装備した。


    入り口のドアが破られる音と、何人もの人間の荒々しい足音が同時に響いてきて姉弟は身構えた


    21名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 12:48:22.88 ID:pjjQRiZp0
    人間はあまりに現実離れした事象に遭遇するとその事象を『外側』から傍観したかのように眺め精神を守るたと、唯は昔教わった記憶があった。

    傍らに大事な妹を抱え、火と煙の中を安全な場所を目指しながら、いや、この時はまだ全世界に安全な場所など無い事を気付いていなかったのだがとにかく安全な場所を探して唯は歩き出した。


    もう何年も、何年も何年も、朝学校に行くさいに『おはよう』と言えば『おはよう』と優しい笑顔で返してくれた優しい優しいお婆さん

    そのお婆さんが数人の人間に食らいつかれてるのを唯は見た。


    唯は助けようとはしなかった、泣きもしなかった
    妹の命を優先してお婆さんを見捨てた。


    23名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 12:59:41.64 ID:pjjQRiZp0
    唯「憂大丈夫?もうすぐ安全な場所に着くからね」

    そんな安全な場所などどこにもないのではないかと唯自身うすうす思ってはいたが、唯は妹を安心させるため、自分を奮い立たせるため敢えてそう言った。

    憂「お姉ちゃん…大丈夫?」ゴホゴホ

    唯「えへへー、大丈夫大丈夫」

    無理をして作った笑顔だったため、かなりひきつってしまった。

    憂「ゴホッ!」

    憂がかなりひどくせき込んだため、唯は一旦憂を下ろし背中をさすってあげた。

    唯「憂、無理しちゃだめだよ」サスサス

    憂「うん…もう大丈夫…」

    唯「皆の待ち合わせ場所に行ってみよう!」

    憂「うん…」
    憂(奥歯が…)

    憂は手の平の中の自分の奥歯を唯に気付かれないように排水溝に捨てた。


    24名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 13:12:58.13 ID:pjjQRiZp0
    澪「…もうやだ…やだよぉ…」

    待ち合わせ場所に向かう途中だった
    いきなり目の前のお店のショーウィンドーが割れ、そこから人間が転がり落ちてきた。

    あまりの恐怖で身動きすら出来ないでいたところ、追い討ちをかけるように澪の横を通り過ぎようとしていたバイクが宙に舞った。

    そこから先はよく覚えてはいない
    大量の人の怒号と悲鳴、それに押される形で澪は走った
    気付いた時にはトイレの個室だった。

    澪「うぅぇ…律…律…助けて…」ヒック

    失禁のせいで股間がかなり冷たいがそんなものどうでもよかった
    人が人に襲われる、そんな場面を目撃したら誰だって失禁する、恥ずかしいことじゃない
    と、澪は自分を庇護した。

    だが澪は知らなかったのだ、トイレの個室が一番危険な事を。


    25名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 13:26:05.58 ID:pjjQRiZp0
    ヒタ
    澪(あれ?今音がしたような…)

    ヒタヒタ
    澪(間違い無い!誰かの足音だ!)

    ヒタヒタヒタ
    澪(早く!早く通りすぎて!)

    足音はトイレの入り口で止まった

    澪()ドキン

    ガチャ
    足音の主はトイレに入ってきた
    そしてそのままトイレの中をウロウロするような音が澪の耳に聞こえてきた。

    両手で口をふさぎ、便座のフタの上に体育座りする形で澪は音の主が去るのを1秒が1時間にも感じられる時間の感覚のなか待ち続けた。

    やがて足音の主はトイレから出て行った。

    澪「ふぅ…」
    と一息着いた次の瞬間、個室のドアが勢い良く破られた。

    澪「ぎゃぁぁあ!!!」

    澪の肛門から勢い良くウンコが噴出した。


    26名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 13:41:46.76 ID:pjjQRiZp0
    いつもと同じ一日のはずだった。

    いつもと同じように学校に行き。

    いつもと同じように学校で憂や純と話し。

    いつもと同じように紅茶の香りのする部室に足を運び。

    いつもと同じように先輩たちにいじられ。

    いつもと同じように先輩たちに小言を言う。

    そんな一日になるはずだった。

    リビングのソファーに座る私の隣で預かった可愛い猫が舌を出しながら舐めている。

    もう考える事も出来なくなってきた。

    もう終わるんだ。

    最後に脳裏に浮かんだのはいつも抱きついてくる先輩の顔だった。




    梓の頸動脈から吹き出してソファーに流れている血を舐めていた猫が、目の前の生き物の生命の活動が停止したのを察して血を舐めるのをやめ、顔を上げた。


    27名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 13:51:10.43 ID:pjjQRiZp0
    ……
    ………

    記者「…え?それで終わりですか?そんなあっけなく?」

    律「あぁそうだよ、あっけなく、だよ」

    記者「もっとなんというか、部員全員で一丸になって危機に立ち向かう的な…」

    澪「そんな甘くないよ、そんな状況じゃなかった」

    律「実際見たのはソファーで死んでた梓だし、何か梓なりに戦ったのかもしれないけど死んでたから聞きようがないんだ」

    澪「今のも梓だったら最後こう考えてたろうなって私達が思ってるだけだし」

    唯「絶対あずにゃんは私のこと考えてたよ!」

    律「はいはい」

    記者「そんなもんなんですね…」

    律「そんなもんだよ」


    ……
    ………


    31名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 20:43:06.43 ID:pjjQRiZp0
    澪「ギャァァアアア!!ぎゃぁぁあ!!」

    自分でもいままでこれほど出した記憶がないほどの大声だった
    いつも発声練習していた影響なのだろうか、こんな緊急事態にも関わらずそんな事が頭に浮かぶ人間の頭脳は計り知れない、と澪は思った。

    澪「ちょちょ!ちょっと待って!今は駄目!トイレ入ってるから!駄目!絶対!!」

    口から血を滴らせた妙齢の女性と狭い個室内で格闘になり、糞尿を撒き散らしながらなんとか澪は個室から抜け出ようともがく。

    澪「ふぅぁあ!!」

    人間本気の本気になると口から獣のような声が出る
    その叫び声と共に女性を壁に押し付け返す刀で個室から脱出…

    コテッ

    出来なかった。
    まただ、大事なところで私はいつも転ぶ、終わった…
    と澪はすべてを諦めた。

    女性Z「ぐるぅぅ…」

    女性Zが澪の頭に手を伸ばした瞬間、ゴキュと変な音を立てて女性Zはゆっくり崩れ落ちた。

    澪「?」

    そこには血の付いたバールを持って息荒く仁王立ちしている和の姿があった。


    35名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 21:07:12.66 ID:pjjQRiZp0
    グシャ
    頭から鈍い音をたてながら家に不法侵入してきた正気を失ってる人間の一人が頭蓋骨が陥没した状態で床に崩れ落ちた。

    聡「ねえちゃん!!」

    ザクッ
    目の前の人間の眼目掛けて振り下ろしたスティックが眼を貫き脳に達した辺りで律は弟の方を振り向かず大声をあげた。

    律「なんだよ!?」

    聡「これ正当防衛!?」

    バットをフルスイングさせながら、聡も姉の方を振り向かず叫んだ。

    律「当たり前だろ!」

    聡「ねえちゃん釘どこだっけ!」

    律「工具箱の中!」


    家の中に不法侵入してきた人間を全員片付けた後
    姉弟でバットには釘を、モップの先に包丁をくくりつけた即席槍を作った。

    姉弟で一緒に何かをやったのはいつの事だったろうか
    と、律は振り返る、部屋が別々になってからそんなことは一度もなかったなと思った。

    律「よし、いくぞ聡」

    聡「え?どこに?」

    唯や、ましてや澪がこの状況で無事であるなど律には到底思えなかった
    ならばまがりなりにも部長の取るべき道は一つである。


    36名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 21:50:19.77 ID:pjjQRiZp0
    さわ子「うらぁぁぁあああ!!!」

    ドガシャーン!
    3年ローンで買った愛しい軽のバンパーにぶつかった人間が
    フロントガラスに頭から激突して物凄い勢いで疾走する車の後方で頭から落ちたのをさわ子はバックミラーから見た。

    さわ子「なんじゃぁぁあこりゃぁあ!?」

    混乱のあまりいつもの穏やかな仮面を脱ぎ捨てたさわ子は、道路にたむろするZ達をはねながらT時路を華麗なドリフトで曲がる。

    車のラジオからは無機質な機械音声が同じ緊急情報を垂れ流している

    『現在…なるべく家に…

    車からおりられない為当て所もなく車を走らせているさわ子の目に見慣れすぎた愛しい教え子の姿が映って急ブレーキを踏んだ。

    ギャギャギャ!
    さわ子「大丈夫!?」

    唯「さわちゃん!?」

    さわ子「乗って!」

    唯「うん!憂行こう!」

    憂「…」

    唯「憂?」

    憂「味噌汁目玉焼きベーコンお姉ちゃんの朝ご飯お新香卵焼き…」ブツブツブツ

    唯「憂?」


    37名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 22:07:45.40 ID:pjjQRiZp0
    目を閉じながら寝言のようなものをブツブツ呟いている憂を後部座席に寝かせ、唯はさわ子の隣に乗り込んだ。

    さわ子「一体どうしたの!?」

    唯「家を出ようとしたら憂がフラフラでお父さんとお母さんがフラフラになって階段から落ちてフラフラで!…」ポロポロ

    親しい人間に会えた安心感からか、張り詰めていた気が緩んだのか、目から涙を流しながら
    自分でも意味の分からないことを唯は取り留めもなく喋った。

    さわ子「うりゃぁあ!」

    バコーン!
    道をふさぐZをはねた瞬間、唯はそのZが見慣れた人間であることに気付いた。

    唯「店員さんだ…」

    ギー太を散々に値切って最後にはムギちゃんパワーで押し切られて涙目になっていた店員の死を目の当たりにして
    唯は目の前の現実がもう『普通』ではないことに気付かなければならなかった。

    さわ子「どこにいく!?」

    唯「…皆との待ち合わせ場所に!」


    40名も無き被検体774号+[]:2013/03/30(土) 23:43:38.44 ID:pjjQRiZp0
    自衛隊が誇るAH-64D攻撃用戦闘ヘリが広大な敷地内の中庭に着陸しローターの回転により巻き上がる砂埃の中を中腰になりながら少女はヘリに近づいていく。

    ヘリの扉が開き中から屈強な自衛隊達が何人も重武装のまま降りてきて目の前の少女に対し敬礼をした。

    少女はその場の緊迫した場に似つかわしくない笑顔でその敬礼に敬礼をもって返した。

    「一度敬礼してみたかったのー」

    間延びした声が辺りに響き、自衛隊員達も今おかれている状態を忘れ顔を綻ばせた。

    「ここに取り付けてありますので」

    自衛隊員が敬礼姿のまま目の前の少女と接点があるとは思えない無骨な形の重機関銃を眼で指した。

    「わぁーM2!一度撃ってみたかったのー!」

    少女はそのままAH-64D、自衛隊に払い下げされる前はアパッチと呼ばれていた軍用ヘリコプターに乗り込みパイロットに告げた。

    「友達との待ち合わせ場所に行きます」

    AH-64Dのローターが激しく回転し、またも周囲に砂埃を巻き上げながらAH-64Dが飛翔していく。

    「皆、待っててね!」


    紬は眼下に見える地獄を見ながら待ち合わせ場所をパイロットに指示した。


    41名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 00:03:47.91 ID:pjjQRiZp0
    和「澪大丈夫!?怪我は無い!?」

    和は荒い息のまま床にへたれて放心している澪の肩を掴んだ。

    澪の目には目の前の友人が聖女のように、後光がさしているようにみえた、または救世主と呼ぶべきか。

    澪「和ー!!!」ポロポロ

    涙を流しながら澪は和に抱きつこうとしたが、その手が空を切りまたもや澪は前のめりにつんのめった。

    澪「和…?」

    和「うーん、澪、その…汚いというか…」

    和に言われて澪は自分の股間が小便と汚物まみれなのに気付いて顔を真っ赤にした。

    そんな長閑な瞬間も

    ゥゥゥゥ

    遠くから聞こえる大量の人間の呻き声によって破られた。

    澪「ひっ…!」

    和「移動しましょう澪!」

    澪「み、皆と待ち合わせしてるんだ!そこに!」

    二人はトイレから飛び出し走り始めた。


    43名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 00:28:58.57 ID:GnUulEwf0
    律「よし行け聡!!」

    律は弟の運転する自転車の後ろの足をかけるところに両足を乗せて手作り槍を右手に持ち
    左手を信頼する弟の肩に置いた。

    聡「いくよねえちゃん!!」

    聡は全力でペダルを踏み込み歩道を全力疾走で走り始めた。

    律「行け行け行け行け!!」

    自転車は風を切りながら昨日までは見慣れていた町を疾走していく。
    そう、昨日までは見慣れていたが今はもはや別物になってしまった町。
    煙の匂い、人の死の匂い、血の匂い。
    人間というのは不思議なもので、そんな非日常な匂いもわずかな時間で慣れてしまう。

    律「澪ー!!待ってろよー!!」

    緩慢な動きで自転車の進行を妨げようとしたZの顔面を刺しながら律は叫んだ。


    44名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 00:43:08.22 ID:GnUulEwf0
    異変に気付いたのは猫だった。

    猫というのは人間には備え付けてられてはいない第五感というものを持っているという
    その第五感が何かを伝えたのか、猫は寝ていた状態から素早く起き
    猫特有の油断のならない目つきで低い声をあげた。

    猫の目線の先には先程生命が終わった生き物がいる

    その生き物が首を傾げたまま立ち上がって、低い声で唸っている猫を焦点が合ってない目で見つめた。

    一瞬だった

    素早い動きで猫を掴んだ生き物はもの凄い力で猫を壁に叩きつけた。

    猫の口から内蔵とも汚物ともつかない何かが吐き出されて、猫はしばしの痙攣の後絶命した。


    その生き物は渇きと空腹、そして生前の習慣に習った行動を満たすため、死の支配する『外』に、入り口のドアを開け出て行った。


    47名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 01:59:28.65 ID:GnUulEwf0
    澪が潜んでいたビルから一歩外に出た瞬間、二人は走るのをやめた。

    目の前の光景があまりに信じられない光景だったからだ。

    道路にあるもう焼け焦げて原型をとどめていないバスを何十人ものZが転がしていた
    いや、正確に言えばZの進行上にあったバスを避けようともしないでそのまま直進しているのであった。

    和「なんなのよ…コレは…」

    澪「和!早くいこう!」

    澪に袖を掴まれた和は我に返り待ち合わせ場所に向けてまた走り始めた。

    和「待ち合わせ場所って!?」

    澪「部室!今日休みだけど特別に練習するからって許可貰ってたんだ!」

    和「学校…」

    和は危惧していた、学校という空間は閉鎖的だ、開放すぎるところも危険だが閉鎖的な所も逃げ場所がない分危険だ
    なにせ一度進入されれば逃げ場がない。

    だけど澪の話では唯達もそこに向かっていると思われるという話だから他に道はない。

    元より和に友達を見捨てるという選択肢はなかった。


    48名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 02:21:03.17 ID:GnUulEwf0
    律「学校だ聡!」

    律は弟の後頭部を叩きながら叫んだ。

    聡「学校!?」

    律「そうだ、皆も多分そこにいるはずだ!今日待ち合わせしてたからな!」

    聡「そこにいるとは限らないじゃん!!」

    律「感だよ感!」

    そう、ただの感だった
    町がこんな状況である以上皆が律儀に待ち合わせ場所に向かうとは限らない
    それに最悪な場合はもう…
    そんな嫌な予感を振り払うように首を振った律は叫んだ。

    律「とにかく皆学校にいる!!」

    聡「いないよ!!」

    即座に否定されて律は自転車から落ちそうになった。

    聡「そこにいるじゃん!!」

    律の眼にZに追われている澪と和二人の姿が見えた。

    律「いたいたいたぁぁあ!!聡、突っ込め!!!」


    49名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 02:37:51.99 ID:GnUulEwf0
    さっきから肺がもう限界を迎えている、呼吸も満足に出来ないくらい息が早い
    澪の手を掴みながら走ってる和も息絶え絶えに必死に走っている。

    先程から数人のZに追われているせいだ、和の手にあるバールだけでは対処は出来ない
    それ以前に私が確実に足手まといになるだろうと澪は思った。

    かなり走ってるのに追いかけてくる側には疲労の色も見えず一定のスピードで追いかけてくる、捕まるのは時間の問題だ。

    和だけなら逃げ切れる、澪はそう判断した
    自分一人のせいで和まで巻き添えにするのはまっぴらだ
    澪は掴まれていた手を強引に振りほどき、驚いて振り向いた和に手をヒラヒラさせて『先に行け』のポーズをした
    もう声も出ない。

    追いついたZの手が澪の首筋に延びた瞬間、そのZが横凪に吹っ飛んでいった。
    車か何かの体当たりをくらったのか?酸素が足りないせいか澪には目の前の光景がぼやけて見えた。

    「澪、待たせたな!なんちゃって」

    例え見えなくてもその声に聞き間違えなどない、喜びで澪は涙を流し、嗚咽を発した。


    50名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 02:52:01.02 ID:GnUulEwf0
    それから和、澪、律、聡の四人が学校前に到着したのは数分後だった。

    見慣れた車を見た律が声をあげた

    律「あれ?さわちゃんの車じゃない?」

    四人は車に近づき中の様子を見た
    車の中にいたのはさわ子と、唯と、後部座席で眠ってるように見える憂だった。

    さわ子と唯は、人形のような無表情で校門付近を見ていた、その顔は真っ青だった。

    律一行は、二人が見ている目線の先にあるものを見て、二人と同じ絶望に襲われた。

    律「マジかよ…」

    澪はそのまま膝をつく形で力なく地面にへたりこんだ
    和は両手を口に当て目を見開いたまま微動だに出来ない


    そこにたむろしていたのは、かつてのクラスメート達だった
    そう、『だった』者達が校門付近に何十人と呻き声をあげながら焦点の定まらない目でウロウロしていた。   


    51名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 03:09:41.13 ID:GnUulEwf0
    聡以外の全員の気力、生きる気力と言い換えてもいいかもしれない
    その気力は尽きかけていた。

    昨日まで一緒に学び、一緒に話し、一緒に学園祭など学校行事を楽しんだ仲間たち
    その仲間たちがZになった、その事実は、他人がZになることの何十倍も皆の気力を奪った
    学校とは、言わば唯達にとっては『日常』だったのだから。

    唯達の姿を確認したかつてのクラスメート達はゆっくりと、意志が統一されているかのように唯達の方に向かってきた。

    飢えを満たすために。

    戦う気力もなくなった皆が死を覚悟した瞬間、もの凄い轟音が響き、突風が辺りに舞った。

    最初にそれが攻撃ヘリだと気付いたのは聡だった

    攻撃ヘリの扉が開き、M2重機関銃から出るフラッシュノズルとヘリから落ちてくる薬莢を眺めていた間に
    かつてのクラスメート達は原型を留めない肉片になり辺りにちらばった。

    紬「みんなー、大丈夫ー?」


    53名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 03:36:11.63 ID:GnUulEwf0
    自衛隊員による学校周りの籠城陣形が敷かれた少し後、皆は部室にいた。

    そして、それより前に学校内に来ていたZが皆が部室に移動したのを見計らったかのように、階段を上り始めた。

    Zの知識レベルについては、10年後でも意見の分かれるところではあるが、人の退路がなくなるところを狙い撃つかのように襲いかかる事象を見る限り、狩猟本能については動物並みにあると判明はしている。

    かつて梓だったものは、見慣れた階段、見慣れた亀の彫刻が施された手すりを見ながらもなんの感傷も浮かんでこなかった。

    あるのは耐え難い空腹のみ、その空腹を満たすために梓だったものは階段を上る。

    階段を上りきり、ドアノブに手をかけようとした瞬間中から声が聞こえてきた

    唯「あずにゃん…大丈夫かな…」

    その声を聞いた瞬間、ドアノブにかけようとした手が動かなくなった。

    律「危険だけど後で家に行って見ようぜ、家に籠もってるかもしれないし」

    どうしても手が動かなかった

    耐え難い空腹はこの中にいる者に食らいつけば解消できるのに

    澪「そうだな…怖いけど後で行ってみよう」
    律「漏らすなよ」
    澪「うるさい!!」
    ゴチーン!
    律「いてぇ!」

    唯「あれ?」
    ガチャ
    律「唯どうした?」

    唯「誰かいたような気がしたんだけど気のせいかな…」


    54名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 03:56:59.33 ID:GnUulEwf0
    梓だったものは自分の家のドアを開けて自分が先程まで座って事切れていた場所にまた座った。

    耐え難い空腹は未だあるが、なぜだかこうするのが正しいのだと梓だったものは思った
    こうして座り続けるのが梓だったものの本能が選んだ選択だった。

    10年後の研究により、Z化したものた親しい人間が声をかけると微反応を示す者がごく稀に存在することがわかっている。

    人の脳は実に不可思議だ、昏睡状態にある人間に対し親しい人間が声をかけると何らかの反応を示す場合も多いという。

    梓「ゴメンナサイ…」

    どういう意味の言葉なのか梓だったものには分からない
    何に対する謝罪の言葉なのかすら分からない
    だがその言葉は発せられなければならない言葉だったのだと梓だったものの本能は思った。


    やがて家のドアが開き、聞き慣れた声が聞こえた瞬間、梓だったものの脳はZウィルスの宿主を生かそうとする意志をも無視し、完全に機能を停止した。


    唯達の長い1日はこうして終わりを告げた。


    62名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 13:53:23.00 ID:GnUulEwf0
    私は記者だ。

    Z dayから10年が過ぎ去り、この戦争も集結に向かおうとしている今、生存者からのインタビューを元に回顧録を作ろうと官僚、軍人などを中心にインタビューをしている。

    現在私がインタビューをしているのは、『紅茶会』と呼ばれている民兵集団(現在は自衛隊の一部隊に組み込まれてしまっているが)の指導者の女性達だ。

    何故民兵集団のインタビューなのか?官僚や国の指導者など大物ではなく民兵集団なのか?
    それはこの民兵集団紅茶会の指導者の一人である皆から唯と呼ばれている平沢唯がとても興味深い人物だからだ。

    10年前、平沢唯が立案したとされる『yui plan』
    あまりに非人道すぎるとして各国首脳から総批判されたplan
    だが南アフリカ共和国の大統領による賞賛、実行による絶大な効果による全世界への戦術の拡散
    その戦術の考案者が平沢唯だと思われているからだ。

    何故『思われて』いるだけなのか、それは本人が否定も肯定もせず沈黙しているからであり、心無い人間達からの罵倒も沈黙をもって答えとしているからでもあった。

    本来ならば戦争を終結に導いた英雄としてそれなりの地位についていなければおかしいのだが、あまりにも非人道すぎる戦術の発案者が彼女をただの民兵集団の指導者に貶めている。

    彼女達に話を伺うにつれ、『yui plan』の真実が見えてきた、それはとても悲しい覚悟から産み出された戦術であり、平沢唯になんら責任などないという『真実』であった。

    私は、記者としてのポリシーに基づき、ここに『真実』を書き記したいと思う。


    63名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 14:12:41.47 ID:GnUulEwf0
    梓の埋葬から一週間後。

    紬の父親と日本国家の対応は早かった。
    桜高校を本陣とする避難都市建設まで一週間で速やかに行われた。
    周囲を高さ20mに達する防壁で覆い、かつて女学生の華やかな声や、部室から流れる賑やかな音楽で彩られていた場所は
    いまや生存者搬出用のヘリの音と、絶え間ない銃声の音に支配されていた。

    純「梓ぁ…」

    校舎脇に簡易的に作られた梓のお墓の前で、梓の友人が力無く膝を折りうなだれていた。

    部室の中は、簡易ベットが持ち込まれ、その上には憂が息も絶え絶えになっているにも関わらず、額の汗を必死に拭ってくれている姉を逆に心配するような顔で見つめている。

    憂「…ごめんなさいお姉ちゃん」

    唯「いいのいいの!」ニカッ

    端から見れば仲むつまじい姉妹にしか見えないだろう
    だがこの時の二人は想像だにしていなかったに違いない
    敵はZだけではないということを、どの国にも例外なく行われる事
    国の非常事態の際には必ず行われる『間引き』が行われようとしていた事に。


    65名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 14:36:22.05 ID:GnUulEwf0
    紬「はい、これが89式銃ね」

    澪「え…いきなり渡されても…銃なんて…」

    紬「自分の身は自分で守らなきゃ!」フンス

    紬から手渡された銃を手に持って、澪はその重さを実感していた、ただ重いだけなのではない、この引き金を引くだけで人が殺せるのだ。
    『殺すことの簡略化』なるほど、戦争というものが根絶されない原因はこれなんだな、と澪は思った。

    律「よし聡撃て!」
    聡「了解!」
    ズダダダダタ!
    律「頭ねらえ頭!」

    銃を撃つ事に抵抗のある澪に比べ、律と聡の割り切りはとても早かった。
    今も防壁の上から下にわんさと集まっているZに向かって銃を乱射している。

    ウィルスの変異は早い、Zウィルスの変異によりZの体液はタールのようなとても粘性の高い体液へと変貌し
    脳神経さえ無事であれば頭のみでも活動が可能な化け物へと変貌した。

    タールのような粘性の高さ=銃弾が通らない事を意味し、正確に頭脳を破壊しなければならない以上、ある程度の接近戦を余儀なくされてしまうわけだ。

    さらに炎に包まれても構わず行動するため、F-22などによる焼夷弾投下による殲滅作戦もことごとく失敗し
    絶対数の多さからミサイルによる攻撃も非効率的であるとし、戦闘機は予備役に回されているのが現状である。

    キンコンカンコーン
    律「来るぞー」
    紬「了解ー」

    チャイムがなると同時に防壁の上に大量の軍人や銃をもった生存者が集まってきた
    日に一度はあるZの功城行為への防衛である。


    67名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 15:06:09.62 ID:GnUulEwf0
    最初に見た時は皆度肝を抜かれたものだ
    なにせZが壁に貼り付き下のZを踏み台にするように蟻塚構築のようにZの山が出来上がって行くのだから。

    実を言えば10年かけてもZが何故人間を襲うのかは分かってはいない
    予めウィルスに人間を見たら襲えとDNAに記されてるとしか思えない。

    律「よーく狙えよー…」

    Zが眼下10mまで迫ってきても誰も発砲しなかった、比較的頭部に銃弾を集中できる距離まで近付けなければ意味がないからだ。

    律「よっしゃ撃てー!!」

    律の号令と共に、何百もの89式銃が火を噴き薬莢があちらこちらに散らばっていく。
    天辺にいるZから頭部に銃弾を受け脳幹を破壊され10m下に落下していく。

    澪「…」

    澪は撃たずにその光景を黙って見ていた、撃つことに恐れは確かにある、だが、それ以上に恐ろしかったのは無表情のままかつて人間であったものに銃を乱射出来る人間が恐ろしかった。

    「ぁぁぁあ…」

    澪の近くにいる人間が銃を放り投げてZのような動きをし始めた。
    まただ…と澪は思った
    あまりのストレスで『壊れて』しまった人がこうなってしまう、Zの真似事をしはじめるのだ。
    『寝返り』と名付けられたこの行動は、最近この塀の中で多く見られるようになった。

    その哀れな人は、自ら防壁の下に落ちていった…


    69名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 15:39:38.28 ID:GnUulEwf0
    遠くで銃声の音が聞こえる。

    唯「またりっちゃん達が戦っているのかなぁ…」

    唯は誰に告げるでもなく独りごちた。
    目の前に横たわる憂の様子は一週間前に比べさらに酷くなったように見える。
    熱は引かず、日に何回も痙攣を繰り返す。
    だが、愛しい妹を介抱しているのは唯にとってなんの苦にもならなかった。
    今まで妹に迷惑をかけていた分、その恩を返さねば、唯はそう決意していた。

    憂「…」

    憂の苦しそうな吐息が止み、憂の目が静かに開かれた。

    唯「憂、起きた?今体拭いてあげるからね」

    憂「お姉ちゃん…」

    唯「ん?なに?」

    よく聞き取れなかったので耳を憂の口元の近くまで持って行く
    その時不意に憂は唯の肩を衣類の上から甘噛みした。

    憂「ほへーひゃんほへーひゃんほへーひゃんほへーひゃん」ハムハムハムハム

    唯「憂くすぐったいよー」

    その時、部室内で保護している動物の内、犬だけが一斉に吠え始めた。
    段々噛む力が強くなっていき唯は痛さで叫び声をあげかけた。

    憂「ほへーひゃんほへーひゃんほへーひゃんほへーひゃんほへーひゃんほへーひゃんほへーひゃん」ガブガブガブ

    唯「い…痛いよ憂!」

    その瞬間憂は唯の肩から口をはなした、そしてそれと同時に犬達の鳴き声もやんだ。

    和「…」

    その光景を見ていた和は、二人に気付かれないようにそっと部室のドアを閉めた
    その両目からは涙がとめどなく流れ落ちていた。


    78名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 21:43:10.98 ID:GnUulEwf0
    律「…ふぅ…うまい」

    紬「ほんと?」

    律と澪と紬と聡が床に座って紬の淹れてくれる紅茶を飲んでいる。
    真っ赤な夕焼けの中、そんな光景を昔を懐かしむように眺めている自衛隊員の羨望の眼差しを受けながら、澪は顔を真っ赤にした。

    この風景だけみれば昔、もう昔と呼んで差し支えないほど日常が遠くなった昔の、部員全員で集まってくつろいでいた放課後のティータイムだったろう。

    だが現実には部員の一人はもうこの世にはいない、死を看取ることすら出来なかった。
    それに足の踏み場もないほどの大量の薬莢、鼻をつく硝煙の匂い肉が焼けた匂いが全員にもう一週間前の昔には戻れないことを伝えていた。

    律「ふんふんふーん」

    ふわふわ時間を鼻歌で歌いながら律はスティックを持った振りをして叩き始めた。
    の瞬間素早く立ち上がって近くのハイマー君を取り壁から顔を覗かせたZ目掛けて振り下ろした。

    律「まーだいたか」

    ※兵士用塹壕構築補助具
    スコップに両刃の戦斧を取り付けた接近戦用の武器、通称「ハイマー君」


    79名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 21:59:29.50 ID:GnUulEwf0
    和はもう気付いていた、憂はもうウィルスに感染している。
    だが感染から発症までわずか1日、遅くとも3日には発症するはずのZウィルスにも関わらず、憂はまだ完全に発症はしていない。

    もしかしたら憂には特殊な免疫があるのだろうか…
    そこまで考えて和は首を二回三回横に振った。
    いや、憂がいずれこの避難所を危険に陥れる事は分かり切っている事だ。

    完全に発症していないとはいえ、そういう人間が中にいると分かったらどうなる?
    分かりきってる、皆がパニックになり収拾がつかなくなりやがて内部から崩壊するだろう。

    友達を取るのか、避難所の皆を取るのか、和は今までこんな重い決断を迫られた事はない。

    人間は重い決断の時内容を簡略化する、和はならば憂と唯なら?それに対しての答えはすぐに出た。

    もう時間はそんなに残されてはいないだろう。


    和は壁に簡易的に『殲滅作戦本部』と書かれた部屋の扉をノックして中に入っていった。


    82名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 22:25:27.85 ID:GnUulEwf0
    唯「よし、可愛い妹の為にお姉ちゃんが一曲弾いてあげようではないか」

    『あの日』は部室で遊ぶ、いや練習する予定だったため、部室内に皆の楽器を置いたままにしていたのだ。
    非常用電源は必要な時にしか使わない為部室に電源が通ってない為アンプに接続は出来ないが
    アンプを繋がなくても弾けるのがギターの良いところである。

    ギー太の横に、もうそれを弾くべき人間がいないムッタンが鎮座しているのを見て唯は一瞬沈んだ表情になったが
    妹を心配させないように振り向いた時にはもう笑顔に戻っていた。

    唯「さて、なにを弾いてあげようかね、何がいい?」

    憂「お姉ちゃんの好きなので」

    唯「よし、それじゃ最近食べてない『ごはんはおかず』にしようかね」

    憂「ふふっ」

    避難所内では軍用レーションばかりで炊いたご飯などほとんど食べられないのが現状である。
    乾パンやレーション缶詰はぶっちゃけ美味しくはない。

    憂「…また、美味しいご飯食べれる日がくればいいね」

    唯「…そうだね」

    唯「よし、それじゃいくよー…1.2


    3と同時に部室のドアが乱暴に開けられ、防護マスクに白衣の人達が何人も入ってきた。
    その人間達の後ろに隠れるようにいた和の姿を見つけた唯は和を問い詰めた

    唯「和ちゃん?」

    和「…」

    唯「和ちゃん!」


    ちょうどその頃、防壁付近での動きも慌ただしくなっていた、Zの動きがおかしいとの報告があったのだ
    10年後の今でも語り継がれている桜の戦いの始まりであった。


    83名も無き被検体774号+[]:2013/03/31(日) 23:04:33.68 ID:GnUulEwf0
    聡「夜は動き停止するんじゃなかったの!?」

    Zは夜は活動が鈍くなるというのが通説だった
    だが通説は通説、確実ではない。

    非常用電源をフル稼働させスポットライトを辺りに照射してZの動きを観察する、明らかに先程の数倍のZが防壁付近に集結してきていた。

    律「なんだこりゃ…」

    律は震える手で64式銃の弾倉交換をしようと試みたが、震える手ではうまく弾倉交換が出来ない
    左手で弾倉を持つ右手を叱咤するかのように叩いた。

    澪「こんなの…無理だろ…」

    澪は真っ青になった顔で絶望に満ちた声を出した。

    元来夜襲というのは奇襲が基本である、相手に気付かれてはあまり意味はない
    だが、相手は頭部を破壊しない限り死なない化け物なのだ
    それにこの薄暗闇の中では正確に頭部に命中させれる自信など誰一人としていない。
    それにこの人数にまかせた物量作戦で来られたら持ちこたえられるかも分からない。

    防壁の兵士たちは緊張のあまり誰一人動こうとはしなかった

    やがて、ある一人の兵士が吸っていたタバコの火がフィルターにまで達し兵士の指を焼き、気付いた兵士がタバコを防壁の下に捨てタバコが闇に呑まれていった
    それを合図にしたかのようにZ達が不気味な呻き声を一斉にあげ
    地響きと共に全方位から防壁に殺到してきた。


    誰かの発砲を引き金として、全員が乱射を始めた頃
    中庭からAH-1SコブラとAH-64Dアパッチがグンタイアリ(Zの群の総称)の蟻塚破壊のため律達の上空を爆音と共に発進していった。


    101名も無き被検体774号+[]:2013/04/01(月) 21:08:56.83 ID:g23QMf/b0
    18:15

    部室内

    銃撃音が激しく響き渡る中、唯は明らかに楽しい要件で来たのではない事が分かる装いの訪問者を前に身の危険を感じ身構えた。

    そして、防護マスクと白衣に身を包んだ人間達を掻き分けるように和が前に出てきた。

    防護マスク隊のリーダーらしき人間に『私が話をする』とでも話したのであろうか、リーダーらしき人間は周りの人間を見渡し一回だけ頷いた。

    和「あのね唯聞いて頂戴、この人達は憂ちゃんを助けに来たの」

    引きつった笑顔で和は答えた。

    唯「助けに?」

    和「うん、だからね、憂ちゃんを渡して」

    歪んだ笑顔であった、心に疚しい物がある人間が見せる笑顔であり、その表情で話す人間を信用するに値しないと思わせるには十分な歪な笑顔であった。

    もっとも、和の行動は『小の虫を殺して大の虫を生かす』理念から生まれたものであり、単純な悪意から生まれたものでない分、和を悪と断ずることも出来ない。

    唯「…やだ」

    唯は、ベッドに半身を起こして不安そうな顔をしている妹の手を握りしめてハッキリと拒絶の言葉を口にした。

    和「…何言ってるの?唯、今まで私の言ったことに間違いあった?」

    確かに今までは間違いなどなかった、幼稚園の頃からだ。


    だが、これは間違いだとハッキリ分かった。

    唯「やだ!!」

    和「唯!!」

    防護マスクのリーダーが、『もういい、退け』という感じで和を右手で払い、一歩前に踏み出した瞬間遠くから金切り音のような音が聞こえてきた。

    防護マスクのリーダーがその音の正体を確認しようと窓を覗いた瞬間、リーダーの頭部は窓ガラスを割り飛び込んできたTOWの直撃を受けて吹き飛んだ。

    部室内に和の悲鳴が響き渡る中、防壁各所で緊急事態を示す信号弾が発射されていた。


    102名も無き被検体774号+[]:2013/04/01(月) 21:39:19.33 ID:g23QMf/b0
    18:09

    円形防御防壁北壁拠点付近

    桜高校を中心とする円形防御防壁は東西南北にそれぞれ拠点を設けている
    このような円形の防御陣地は、実をいえば大量の警備人員を必要とするため防御には全く向いてはいない
    それでも東西南北に拠点を設けさえすれば最低限の警戒ラインを敷くことが可能なのだ。

    つい数分前に東壁拠点で皆と別れて北壁拠点防御に回ってきた聡は、無反動砲を構え蟻塚目掛け撃ち込んだ。

    弾頭が蟻塚の中腹付近に着弾し、蟻塚が山滑りを起こしたかのように崩れ落ちていく。

    聡は無線機に向かって叫んだ。

    聡「こちら聡、ねえちゃんどうぞ!!!」

    『こちらお前の姉ちゃんだよ!今忙しい!』

    無線の向こう側の声は怒号や銃声で姉の声がよく聞きとれないほどだった
    だがとりあえず生きているようで安心した
    聡がホッとした瞬間、聡の視界に蟻塚らしき物が見え、無線を放り投げて再度無反動砲を蟻塚に構えた。


    その蟻塚は今までの蟻塚と違った形をしていた、不思議に思った聡が目を凝らすと、それは蟻塚に『捕まってる』AH-1Sコブラだった。

    先程まで低空飛行で蟻塚を凪払ってたAH-1Sが、今蟻塚で大量のZにしがみつかれて操縦不能に陥っている悪夢のような光景だった。

    聡「…まずいよ…」

    ようやく振り切って蟻塚から離れたAH-1Sが操縦不能でこちらに向かっているのを確認した聡は横っ飛びで地面に伏せた
    その上方スレスレを狂乱に陥ったAH-1Sのパイロットが放ったTOWが通過していった。

    そのままAH-1Sは防壁にぶつかり爆発炎上し、北壁と東壁のルートを分断した。


    行動範囲の分断により、人類側の主導権は今失われた。


    103名も無き被検体774号+[]:2013/04/01(月) 22:08:52.90 ID:g23QMf/b0
    18:07

    東壁防壁拠点付近

    律は、V8と呼ばれている個人用暗視装置のスイッチを入れた。

    先程までの暗闇で10m先すらよく見えない視界が嘘のように広がった
    しかしその結果グンタイアリの呼び名の如く防壁に殺到しているZがよく見えただけの話であり、律はこんなもん着けなきゃよかったと後悔した。

    律「空飛ぶ日産マーチ!!」

    律はそんな落ち込んだ気分を解消するかのようにパンツァーファウスト、弾頭の特徴的な形から自衛隊内で『空飛ぶ日産マーチ』と呼ばれている対戦車砲をZの群れに向かって発射した。

    空飛ぶ日産マーチは、見事に蟻塚を形成しようとしているZの群れに命中し、Z達は吹き飛んだ。

    律は思う、学校の勉強では赤点スレスレで澪に教わる立場だったが、今回は私が教える立場だな、と、思い思わず顔をほころばせた。

    『こちら聡!姉ちゃんどうぞ!』

    無線機から急に弟の声が聞こえてきて律は持ってたパンツァーファウストを足の上に落として悶絶した。

    律「こちらお前の姉ちゃんだよ!今忙しい!」

    どうやら生きてるようでなにより、口やかましい弟だが死なれるとやはり悲しいから。

    律が北壁拠点の方を向いた瞬間、北壁拠点付近で大規模な爆発が起きた。

    律「聡!!」


    104名も無き被検体774号+[]:2013/04/01(月) 22:39:43.97 ID:g23QMf/b0
    18:11

    桜高校付近

    澪は防壁を下り部室にへと向かっていた
    やはり自分に銃など撃てない、部室で唯と一緒に憂の看病をしよう
    だけど今現在必死に戦っている親友の事を思えば後ろめたい気持ちもある
    戻るか戻らないかで思考の戦いが数十秒続いた時だろうか、校舎の影に女性の顔が見えた。

    女性は地面にうつ伏せになりながら体全体を揺らしていた
    校舎の影になっているため、ここからでは女性の頭しか見えないがどうやら女性の意識は無いようだった。

    痙攣かも?と澪は介抱してあげるべく女性に近付いていった
    「だいじょうぶですか?」と声をかけた瞬間澪は固まった。

    影に隠れていた部分には口から涎を垂らした男性がおり、下半身裸のまま女性を犯していた。

    澪はそのまま膝をつき「あっ、あっ」と声にならない声をあげる。

    女性は頭部に大量の失血をしており、すぐに女性が事切れていることが分かった。

    獣のような呻き声をあげ女性に覆い被さった男性は、暫くしたあと顔を上げ恍惚とした表情を澪の方に向け立ち上がって澪のいる場所に歩を進めた

    その数秒後の出来事だった

    部室の窓ガラスをTOWが破壊した音と律から『御守り代わり』と無理やり持たされたH&Kグロックの射撃音が重なったのは。

    澪が『正当防衛』の名の下に一線を越えた瞬間であった。


    1121 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/02(火) 20:50:04.64 ID:u91+d+uR0
    18:19

    部室内

    TOWがリーダーの頭部を粉砕しながらも推進力を失わず部室内に置かれていた皆の落書きが書かれているホワイトボードも貫通し
    壁にぶつかって部室内にコンクリートの欠片と埃が舞った。

    緊急事態にはめっぽう鼻の利く動物達が、狂騒に陥っている和や部隊の皆の足元をすり抜けて部室の外へと駈けていく。

    唯「憂、逃げよう!」

    唯は、憂を担ぎ上げて部室から逃げ出そうと走り出す。

    『火事場の馬鹿力』人間の潜在能力を如実に表す言葉である
    普段はギー太より重い物が持てない唯が体重40弱の憂を軽々と抱き上げて駆ける事が出来る、裏を返せばそれだけの緊急事態という事だった。

    部隊の人間を肩で弾き飛ばしそのまま部室の外に出ようとした唯の肩を誰かが掴んだ。

    和「唯!待ちなさい!待って!」

    その両目は大きく見開き、額に広がる大量の汗が和の必死さを雄弁に伝えていた。

    和にはハッキリと分かっていた
    幼稚園からの仲である、だからこそハッキリと分かっていた
    決別の瞬間がいままさに来ようとしていることに。

    私はただ唯や皆を救いたかっただけだ、幼い頃から品行方正に育ってきたその性格が導き出したベストな答えなのだ!

    私は間違っていない!私の選択は今まで間違ってはいなかった!唯も分かってくれる!!

    和「私のこと信じられないの!!??」

    魂から叫んだ言葉の返答は、軽く振り向いた際の唯が見せた侮蔑の表情と
    肩をつかんだ手を振り払われたことで何も言わずとも伝わってきた。

    唯はそのまま埃の中を進み部室の外へと出て行った、振り返りもせずに。


    和「うわぁぁぁああああ!!!」


    113名も無き被検体774号+[]:2013/04/02(火) 21:22:31.84 ID:u91+d+uR0
    18:22

    西壁拠点付近

    数分前にAH-1Sが北壁拠点付近に激突して通路が分断されたのを確認した紬は、南壁拠点から西壁拠点経由で北壁拠点に全力疾走で向かっていた。

    それと言うのも、通路が分断された瞬間に全方位に散っていたZ達がまるで意志を持っているかのように一斉に北壁拠点付近に移動し始めたのだ。

    一方通行の援護ルートほど危険なものはない、東壁拠点にも南壁拠点にも人員を残さなければならないのは当然の事だが
    万が一北壁拠点が落とされでもしたら東、南壁拠点の人員が迎撃に向かう際にかなりの時間がかかってしまう。

    紬は、父親の力で様々な銃器、兵站、食料をこの防壁避難所に揃えていた
    その中でも紬が気に入っていたのは今紬が持っている狙撃銃モシン・ナガンである、ただ単に渋さが気に入ったというだけなのだが…

    この骨董品レベルの狙撃銃、VAスコープを装着すればまだまだ使える狙撃銃なのである。

    猛スピードで疾走していた紬が、靴底をすり減らす勢いで滑りながら急ブレーキをかけ
    片膝を床につけ、モシン・ナガンを構えスコープを覗き込みながら暗闇に向けて一発発射した。

    その一瞬後、暗闇から何かが崩れ落ちる大きな音と壁を揺らす微振動が響いた
    モシン・ナガンの一撃が、蟻塚の要石の役目を担っていたZの頭部を破壊した結果であった。

    紬「うん、よし!」

    紬は可愛らしくガッツポーズをし、再び北壁拠点にむけて全力疾走を始めた。


    115名も無き被検体774号+[]:2013/04/02(火) 22:17:53.02 ID:TLpF3YXl0
    18:19

    通路分断箇所付近

    90式戦車に自衛隊員の運転者と共に乗り込んでいたさわ子は、つい先程の物凄い衝撃を受けて
    マッチョな自衛隊員と共に気を失っていた。

    ただでさえ狭い防壁に戦車を配置するなど無茶以外なにものでもないが、さわ子の安全圏にいたがる性分と、紬の『強そう』というごり押しで配置された次第である。

    つい先程北壁拠点に向かっていた最中であった、いきなり近くの壁にAH-1Sが激突爆発炎上した影響で戦車のケツが持ち上がる形になり
    前代未聞の戦車のジャックナイフというウルトラCの代償は後頭部の強打であった。

    さわ子「なんじゃぁこりゃあ!」

    飛び起きたさわ子は、近くで気を失っていた自衛隊員のヘルメットを思いっきり蹴飛ばした。

    狭い空間だと気取らなくてすむ
    さわ子は、戦車の中が気に入っていた。
    その影響がモロに出ている部分があるのだが、誰も見やしないと本人は気にしていない。

    気を取り戻しあ自衛隊員に素早く指示をだす

    さわ子「目標北壁!全速前進だぜ!!!」

    90式戦車のキャタピラーが激しく回転し、北壁に向けて進路をとった。

    そして戦車のハッチが開き、メイド服を着た異様な装飾なさわ子が出てきた。

    さわ子が双眼鏡を覗くと、北壁付近で奮戦してる人間に見知った顔を見つけた
    教え子の弟が64を構えながら戦ってた

    うん、ちょっと先生らしい事をしてみようかなとさわ子は思った。

    さわ子は運転者の自衛隊にある指示を告げた。

    90式戦車が北壁に向けて全速で進みながら砲塔を上げた


    聡の持つ銃の弾薬が切れた
    そして眼前に蟻塚が出現した。
    防ぎきれないと聡が覚悟した瞬間、すぐ頭上を砲弾が通過して見事に蟻塚に直撃した。

    聡が砲弾が飛んできた方を向いてみると、微かにこちらに向かってきている戦車が見えた。

    自衛隊戦車部隊が世界に誇る技術を皆は知っているだろうか?
    その名は『行進間射撃』
    戦車を動かしながらの射撃に対する目標命中率が世界一なのである。

    さわ子は、軽く『うん』と頷き北壁に向かった。


    119名も無き被検体774号+[]:2013/04/02(火) 23:34:19.02 ID:TLpF3YXl0
    world war Zはただ単にZとの戦争ではない、数ある国家の方針や主義までも転換させ国家間の紛争まで数限りなく産み出した泥沼の戦争の総称である。

    桜の戦いが語り継がれている理由も上記の点をふまえて考えればなるほどと私は思うのだ。


    18:41

    北壁拠点付近

    聡と合流した律、紬、さわ子の面々は各個の戦力でZの群れを押し返していた。

    律「聡生きてたか!」
    バシバシ

    自分の後頭部をはたく姉を疎んじる目で見ながらも、嬉しさのあまり口元が緩んでいた。

    紬「終わったらお茶にしましょう!」

    モシン・ナガンを撃ちながら紬は楽しそうに皆に問いかけた。

    律「そうだな、部室に行って唯や澪にも振る舞わないとな、後憂ちゃんのお見舞いにもな!」

    迫撃砲に弾頭を落とした律が紬の提案に賛成した。

    さわ子が90式戦車のハッチから顔を出し『私もー』という感じで手を振った。

    いまだ各所で緊急事態の信号弾があげられてはいるが、この分では撤退させる事は可能であろう。

    律「聡!弾持ってきてくれ弾!弾弾!!」

    聡「弾弾うるさいよ!」

    律「お前も後でうまい紅茶のご相伴に預かるんだから文句言うな」

    ハイハイと軽く返事をした聡は、30mほど先にある弾薬箱を漁り弾を取り出して姉に叫んだ。

    聡「姉ちゃん!何発持って行けばいい!?」

    それが聡の最後の言葉だった
    いきなり聡の真下あたりの壁が大爆発を起こし、聡の体をミンチにした。
    爆風で飛んできた破片が律の額をかすってそのまま律や紬は爆風の勢いで吹き飛ばされた。

    爆発の正体は、日本海に待機中の某国潜水艦から発射されたハープーンが壁に直撃したものだった。

    全世界規模の『間引き』はすでに始まっていた。


    1281 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/03(水) 19:44:52.97 ID:hkc6V/AV0
    その国は昔から日本をねらっていた、今回のZ戦争はその国にとっては願ってもいないチャンスであった。

    自分の国の混乱などには目も向けない指導者により軍人総動員による熱狂的侵略行動が発令されたのは折しも梓が死んだ時間と同時刻である。

    潜水艦による先制攻撃の標的になったのが桜高校防壁避難所になったのはただの偶然ではない
    その場に『国政を左右するような有力者』がいたからである
    言うまでもなく紬とその父親の事なのだが。

    結果的にはハープーンの一発で防壁に大打撃を与えたことになるのだが、次の一発がこなかったのにはもちろん原因がある。

    それはその国が他国侵略に人員を裂くことの愚かさに、もう手遅れになった後に気付いた事
    そしてもう一つ
    海底に鎮座していた原潜にZ達が襲いかかった事にある。

    Zの体液の変容、タールのような体液は非常に『重い』のだ
    これによりなんとZは海底を歩く事が出来る。

    何百ものZに群がられた原潜搭乗員の狂乱が破滅への引き金になったと
    この事実が明らかになったのは最近の事だ。


    18:41

    桜高校一階エントランス付近






    129名も無き被検体774号+[]:2013/04/03(水) 20:09:51.02 ID:hkc6V/AV0
    憂を抱きかかえた唯は、全力疾走で階段を下りていた
    上階から和の叫びとも嗚咽とも取れる叫び声が絶え間なく聞こえて、耳を塞ぎたい気持ちを唯は必死にこらえた。

    もう道は違えてしまったのだから。

    唯が下駄箱の横をすり抜けて外に出た瞬間、北壁拠点で大爆発が起き爆風の衝撃波で校舎が揺れた。

    20mほどの高さの壁が、半分ほど崩壊してしまった
    校舎周辺の自衛隊員、民兵達が慌ただしく北壁拠点にむけてピックアップトラックやハンヴィーに乗り向かっていった。

    そんな狂乱の中、唯は冷静に逃げ道を図っていた
    妹を守るという思いが、戦っている親友達の心配という思いやりを奪いさってしまった。

    澪「唯…」

    いきなり声をかけられたショックで、危うく憂を離すところだった。

    目の前にいきなり現れた澪は、虚ろな目と、乾いた血にまみれた顔と、暗がりのせいで澪だと最初唯は気付かなかった。

    澪「唯…助けて…」

    唯「み、澪ちゃん…?」

    声をかけられず躊躇する唯の真後ろで、エントランスの入り口のガラス扉が大きな破壊音の後散らばるガラスの中から髪を振り乱した和が飛び出してきて叫んだ。

    和「唯ぃぃぃいいい!!!」


    130名も無き被検体774号+[]:2013/04/03(水) 20:51:18.83 ID:hkc6V/AV0
    18:45

    北壁拠点付近

    律の脳裏の中の最後の聡の顔は笑っていた
    弾を取り出してこちらを振り向き笑っている顔
    その笑ってる顔が、強烈な爆発で見えなくなった
    それと同時に律は額に強烈な衝撃を受けて爆風に吹き飛ばされた。

    爆発で聡の最後が見えなかったのは律にとって幸福だったろう
    近距離での爆発により壁の破片が体をズタズタに引き裂く瞬間など見てしまったら律は正気を失っただろう
    さらに律の額をかすったものが聡の頭蓋骨の一部だったことなども知らなくてもいいことなのだ。

    何分くらい意識を失っていただろう、律は痛む全身を引きずりながら手だけで上体を起こした。

    律「う…聡…?」

    聡の立っていた場所から幅5m、長さ10m、高さ10mほど、つまり壁の一部が完全に崩壊していた。

    律「さ…聡?」

    律は立ち上がり、あらぬ方向に曲がった右足を引きずりながら聡が立っていた場所に向かった。

    右足の痛みで意識が飛びそうになるのを必死にこらえてぽっかりと空いた穴に到着した律は、穴の手前にある小さな物を見つけて屈み込んだ。

    そこには焼けた小指があった。

    律はその小指を両手で握りしめて深々とうなだれ叫びをあげた
    さっきまで笑っていた自分の弟がこんなに小さくなってしまった
    思えばいつも口喧嘩ばかりだったような気がする、大切な時に大切な事が言えないまま終わりは突如としてやってくる。

    崩壊した壁に向けてZが大挙して押し返してきた、何十何百何千ものZの唸り声がこだまする中、律は焼けた小指と自分の小指を絡ませて呟いた。

    律「指切りげんまん…」

    何の約束だったのか私は聞いてはいない、聞いてはいけない気がしたからだ、真実を追う記者としては私は失格なのかもしれない、だが人間としての私はそれでいいと納得している、それでいいではないか。

    律はもう焼け焦げ機能しない銃を拾い上げ肩に担いでZ達の群れに向き直った。

    律は右手を伸ばし、指先を揃えて二三回ゆっくり曲げた。

    律「…来いよ!!!」


    132名も無き被検体774号+[]:2013/04/03(水) 21:47:49.14 ID:hkc6V/AV0
    18:49

    北壁拠点付近

    爆風に吹き飛ばされて気を失った紬は律の叫び声を聞いて飛び起きた。

    目がかすんでよく見えないが、どうやら律は泣いているらしかった
    知り合ってから長い時間がたったが律が泣いている姿など今まで一度として見たことがなかった。

    涙は見えない、だけど確かに泣いている
    紬はその訳も知っていた、先程の爆発の中心に彼女の弟がいたからだ。

    紬は思わず律から眼を背けた、見ているのが辛かったからだ。
    自分の体の状態を確かめる
    腕、両手とも正常、折れてもいないようだ
    足、両足とも正常、こちらも折れてはいない
    頭、出血無し

    紬は自分の強運に感謝した。

    さらに自分の近くにモシン・ナガンが転がっているのも見つけて引き寄せた、VAスコープが割れているが狙撃銃自体は問題なさそうだ。

    古い銃は構造が単純な分壊れにくい、メンテナンスが楽なのだ。

    そうこうしてる内に壁の破壊箇所にZ達がうようよ集まってきた、グンタイアリの総称に相応しい動きだわと紬が感心してると
    律が聡の銃を拾い上げて肩にかけながら『来い!!』とZの群に向かって叫んでいた。

    やれやれ、私達の部長はまだやる気なようだ
    なんだかんだ言っていつもあの部長は人間を引っ張っていく魅力があるようだ。

    そうと決まればやることをやるだけ。

    紬は使える銃を拾い上げてから軽やかな足取りで律の隣に並ぶと銃を差し出し肩を貸した。

    紬「やる?」

    律「もちろん」

    『私もね』

    後ろから自衛隊員に背負われたボロボロのメイド服姿のさわ子が律の肩を叩きZに向けて中指を立てた。

    各所から増援が到着し始め、壁を抜けられたら負け、抜けられなかったら勝ち
    の単純明快にして最大の防衛戦が北壁で開始された。


    133名も無き被検体774号+[]:2013/04/03(水) 22:33:57.38 ID:hkc6V/AV0
    19:14

    某所

    大多数の人間が北壁に向かって、周囲の人間の気配がなくなった暗がりを、和と澪は歩いていた。

    和の右手には頭から血を流して気を失った唯の髪の毛が握られていた
    その状態のまま引きずられているせいで唯の右足の靴が脱げた。

    それに気付いた和が髪の毛から手を離し唯は顔面から地面に落ち地面に血が広がっていく。

    和「唯ったら、駄目でしょ?ちゃんと靴を履かないと」ニコニコ

    気を失ってる憂を抱きかかえている澪には、激戦が続いている北壁からの照明弾の太陽のような灯りを背にしている和の表情は見えなかった
    だが何故だろう、澪の額から理由の分からない汗が一筋流れた。

    先程、エントランスから飛び出してくるなり凄い勢いで走りながら唯の頭を棒で強打した和に澪は付き従っていた。

    自分の中の何かが壊れた人間は、目の前にいる人間にすがりたくなるものだ
    たとえその人間の眼に狂気の光が宿っていたとしても。

    唯の靴を履かせてあげた和は、満足したように小さく『ふふっ』と笑って唯の髪の毛を掴んでまた引きずり始めた。

    和「さぁ、行きましょう」

    澪「ど、どこに?」

    和「焼却炉よ」

    澪「なんで…?」

    和「焼却炉は物を焼くためにあるのよ?澪」

    その時、微かに憂の眼が開いた
    その眼は血液の成分交換に伴う毛細血管の破裂により充血していた。

    その眼に引きずられて気を失っている唯の姿が写った瞬間、憂の手が澪の喉を掴んだ。


    1401 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/04(木) 19:44:42.69 ID:vIUGdy+x0
    19:02

    北壁防御線

    さわ子「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんうだぞ。おれも商売ならてめえも
    射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなたれし木はお上のものにきまったし里へ出ても
    誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに 生れなよ」

    さわ子は中折れ式猟銃を構えながら朗読し二連装スラッグ弾を発射してから猟銃を折り薬莢を排出してから
    その薬莢が地面に落ちる前に素早くスラッグ弾を二発中指人差し指薬指で挟み装填した。

    物凄いスピードリロードだった。

    ハープーンが北壁を破壊してから、その割れ目を中心とした半円の迎撃陣地を壁の中側に敷いた。
    もはやZの侵入を完全には防ぐことは出来ない、ならば進入した瞬間に殲滅すればいいだけだ。

    ギリギリ射線軸の仲間に弾が流れないように布陣された半円迎撃陣地に三人は参戦していた。

    律「さわちゃん!それ何語!?」

    律はM4の照準を割れ目から次から次に飛び出してくるZに合わせて引き金を絞りながらさわ子に問うた。

    さわ子がボルトアクション式銃と変わらない速度で猟銃を乱射しながら答えを返した。

    さわ子「水に入んの嫌んなたような気がするじゃ」

    律「答えになってないよさわちゃん!」

    M4のマガジンが落ちた瞬間に予備マガジンを装填して弾幕を切らさないようにしている律の足からは先程の爆発の影響の裂傷と骨折で血が滲んでいた。

    さわ子「後で教えてあげるわよ」

    律「あいよ」

    後で、そんな保証などどこにもないのに二人は生き残るのがさも当然のように拳と拳を合わせた。


    141名も無き被検体774号+[]:2013/04/04(木) 20:25:54.30 ID:RcHnvZPi0
    19:19

    某所

    『細胞傷害性T細胞』

    別名キラーTと呼ばれる最強のウイルスキラーである。
    自然発生することなどまずなく、現在では癌のCTL治療などに用いられるようとしている。

    憂は、自身の体の中に細胞傷害性T細胞を生まれつき保菌している奇跡のようなキャリアであった。

    そのお陰でZウイルスの完全発症を押さえていたのだが、Zウイルスの繁殖速度が細胞傷害性T細胞を上回っていたため、憂は確実に発症に向かっていた。


    憂は右手で澪の喉を握り力を込めて持ち上げた
    憂の指が細い澪の首の肉に食い込んでいって『ぐぎゅ』と嫌な音をたてた。

    澪「…カッ…」

    『助けて』と声を出そうとしても、『ヒューヒュー』と喉から空気を吐き出す音しか出てこなかった。

    筋肉の弛緩により澪の股間から小便が漏れた瞬間、憂は澪を和に向かって投げつけた。
    小便が宙に舞って澪の頭が和の鳩尾に直撃して二人はもつれ合ったまま5mほど地面を転がった。

    人間離れした力の原因は、Zウイルスにあった
    いや、Zウイルスと細胞傷害性T細胞のせめぎ合いが産んだ力と言って差し支えないだろう。

    憂は地面にうつ伏せに倒れてピクリともしない唯の元まで歩き、唯を仰向けに起こした。

    憂「お姉ちゃ
    言い終わらない内に乾いた音が辺りに響いた。

    憂のお腹に小指ほどの穴が開いていた。

    和「なめんじゃないわよ…化け物…」

    和の手に握られていたのは澪の持っていたグロックだった。


    142名も無き被検体774号+[]:2013/04/04(木) 21:15:12.02 ID:RcHnvZPi0
    19:15

    某所

    紬は、聞き慣れたお気に入りのCDを持ちながら暗闇を歩いていた。
    放課後ティータイムの一員になる前はクラシック漬けだったなと紬は回想する
    放課後ティータイムの皆と会わなければ私はどうなっていただろう?恐らく世間知らずのお嬢さまのままピアニストか何かになっていたに違いない。

    暗闇の中から暗視装置を身に付けた自衛隊員が何人も現れ紬の周りに集結した、そのうちの一人に紬は持ってきたCDを手渡し『よろしくお願いします』とペコリと頭を下げた。

    自衛隊員の一人が『避難なさってください搬出用ヘリを用意しております』と声をかける
    『友達が戦っていますのでごめんなさい』と紬がまたもやペコリと頭を下げた。

    『貴女のお父様からの命令でもあるのですよ?』と自衛隊員
    『私は私の命令にだけ従います、友達を守れない人間に琴吹家を名乗る資格はないと私は考えます』と紬

    その場の自衛隊員全員が紬に対し踵を合わせて直立不動の最上級の敬礼をした。

    余談ではあるが、5年後に市長になり、紬こそが市長に相応しいと紬に市長職を譲った三左がこの場にいた。

    紬は踵を返すと、律達の元に戻るべく全速力で暗闇を駆けた。


    10分後、東壁拠点付近、西壁拠点付近から発進したスピーカーを底部に取り付けたAH-2 11機が紬のCDをかけ、大音量の音楽と共に11機横一列の扇隊形で北壁の割れ目に向かって空対空ミサイルを一斉に22発撃ち込んで律達の上空を通過していった。

    正確に壁の割れ目に殺到するZたちに直撃していく空対空ミサイルの爆発を見ながら律は紬に聞いた。

    律「ムギ、なんだこりゃ?」

    紬「昔映画で見て…」

    さわ子「やってみたかった?」

    紬「はい!」


    流れていた音楽はワーグナー『ワルキューレの騎行』である。


    143名も無き被検体774号+[]:2013/04/04(木) 21:59:13.90 ID:RcHnvZPi0
    19:32:35

    それが運命の時間であった。

    ポッカリと空いていた北壁の割れ目がZ達の死体で埋め尽くされるほどになって皆に先勝気分が広がり始めていた頃
    突如東壁拠点付近から怒号と悲鳴が聞こえてきた。

    皆最初は何が起こっているのかすら分からなかった
    ようやく驚愕の表情のまま走って逃げてきたと言う女性により、東壁拠点下の巨大避難扉が開放されてZ達が進入したというのだ。

    誰もその言葉を信じることが出来なかった、確かに東西南北の拠点下には避難扉がある
    入り口兼出口となる扉が一つだけの防壁陣地などなんの意味もないからだ。

    しかし、避難扉の前には常に自衛隊員が多数警備に当たっている
    いくら暴動が起きてもこうも容易く扉を開放できるはずもない。

    だが皆は、いや、日本人はというべきだろうか
    避難民全員が善良な市民であると思い込み、外ばかりを警戒し内に警戒心を持たなかった事がこの崩壊の引き金になったのは確かである。

    たとえば自衛隊員の中にある国の特殊な思想に『あてられた』人間がいたとしたら?
    たとえばその自衛隊員が避難扉の警護という重要位置に配属されていたら?
    たとえばその自衛隊員が『最終浄化』の名の下に中の人間全員を道連れにしようとしたら?

    その『たとえば』に目が向かないのが日本人の悪い国民性である。

    何十年もの平和が産んだ『緩み』のツケを今まさに桜高校防壁陣地は一身に受けた形になった。


    19時32分35秒

    最悪の状況の中で桜高校防壁陣地廃棄、つまり撤退戦が開始された。


    1541 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/05(金) 22:02:57.58 ID:TTybZU6X0
    19:25

    某所

    続けて乾いた音が三発響き、憂の横腹、喉、頬に小指ほどの穴が空き
    憂は正座する形で地面に崩れ落ちた。

    憂の華奢な体に開けられた穴から赤黒い液体のようなものが流れ出してすぐさま凝固していく。

    和「ほら!やっぱりそうじゃない!私は正しいのよ!!」

    和はズレた眼鏡を直そうともせず、グロックを構えたまま憂に近づいていく
    やはり自分は正しかったのだ、憂を排除すればこの防壁避難所の安全を確保できる
    そう考えた自分の決断の正しさを再認識して和は顔を輝かせた。

    和のような委員長タイプの人間に有りがちなのだが『自己完結による満足感の増幅』つまり自分勝手な解釈により悦に入る人間が多い傾向にある
    もちろん和とて元からそういった人間だったわけではないた普段は他人を思いやれる優しい人間だった
    だが今は有事なのだ。

    憂「お姉ちゃん…」

    倒れている唯の頬に手を近づけた瞬間、憂の中指が銃撃音と共に弾け飛んだ。

    和「唯に触るな!化け物!!」

    そのまま再度二発憂に向けられて発射された弾丸は、憂の肺と腎臓部分にめり込み憂は正座のまま仰向けにゆっくりと倒れていった。

    和「あんたが死ねば!皆も!唯も生き残れるのよ!さっさと死ね!」

    和がとどめをさそうと銃口を憂の額に向けた瞬間、東の方角から大量の叫び声とうなり声がここまで響いてきて和はうなり声の方角に目を向けた。

    そこに見えた光景はこれまでの皆を守るという大義名分のためにおこなった自分の行動を無に帰す光景だった。


    156名も無き被検体774号+[]:2013/04/05(金) 22:40:46.06 ID:TTybZU6X0
    19:35

    北壁拠点から南に1kmほどの場所

    現代より何百年も昔、金ヶ崎の退き口という戦いがあった
    今になっても尚語り継がれ自衛隊の戦術マニュアルにも載っている有名な戦いである。

    律「で、私は豊臣秀吉…と、って猿は嫌だ!」

    律はピックアップトラックの荷台に乗り込み愚痴をこぼした
    一緒に乗り込んださわ子が律の頭をいいこいいこするかのように優しく撫でた。

    さわ子「私なんて徳川家康で狸よ?まだマシな方じゃない、腐らない腐らない」

    紬「じゃあ織田信長は誰ですか?」

    最後に乗り込んだ紬が、可愛らしく首を傾げながらさわ子に問いかけた。

    さわ子「そりゃああの人達でしょ」

    さわ子が親指で指し示した方向には、自衛隊員に守られながら撤退していく避難民の姿があった。

    現代にも語り継がれている金ヶ崎の退き口とは
    織田信長を逃がすために殿を務め見事に生き延びる事に成功した豊臣秀吉と徳川家康の撤退戦の事である。

    律「よっしゃいこうぜぃ!」

    律はピックアップの運転席を叩いて発進を促した
    北壁、それから東壁から殺到するZを牽制し、避難民を逃がすために殿を務める
    それは生存率などないに等しかった。

    ピックアップトラックは後輪をスピンさせ小石を弾き飛ばしながら急発進した。


    157名も無き被検体774号+[]:2013/04/05(金) 23:20:16.66 ID:TTybZU6X0
    19:38

    一瞬にしてZの頭部は下顎だけを残して吹き飛び、僅かな痙攣だけを残して動きが停止した。

    ピックアップトラックの荷台に取り付けられたXM806重機関銃の銃口から出る煙の向こうで律が軽い口笛を鳴らした。

    XM806重機関銃は、生産中止になっていたところをどこからか知らないが紬が調達してかたもので
    物凄い威力の前に上機嫌な律の隣で弾薬を肩に担いだ弾薬装填者の紬がニコニコしながら流れる風に髪を揺らしていた。

    さわ子はというと、中折れ式猟銃を肩にし『これで充分よ』といい小回りの効かない重機関銃の代わりに疾走するピックアップトラックに群がるZ達の群を排除していた。

    『婆さま、わしも年をとったでばな』と小説の一節を朗読しながら正確にZの頭部を撃ち抜くさわ子に舌を巻きながら
    『だからさわちゃんソレなんなの?』と律は重機関銃を北から東から襲いかかってくるZの群れの一点に集中砲火しながら聞いた。

    さわ子「だから後で…」

    『ソレ』にいち早く気付いたのはさわ子であった
    さわ子は素早く律と紬を抱きしめるようにして二人をピックアップトラックの荷台に倒し、二人の上に覆い被さった。

    重ねて言うが、このZ戦争は人類とZの戦争だけではない、数限りない人類と人類の紛争と合わせてセットで語られている戦争である。

    律と紬の上にさわ子が覆い被さった数瞬後だった
    日本人に偽装して桜高校防壁避難所に紛れ込んでいた某国の工作員の放ったRPGからの弾頭がピックアップトラックの荷台を貫通し爆発、横転したのは。


    158名も無き被検体774号+[]:2013/04/06(土) 00:32:19.00 ID:mNJI8uvh0
    19:41

    歯ギターやら、友人の結婚式でやらかしちゃったことやら
    思えばあの子達に関わってからあまりロクな目にあった事がない。

    いや、それを帳消しに出来るほど楽しいことを経験できたのもあの子達のお陰だろう、とさわ子は思い直した。

    やけに眠い、今日は二度寝しよう…その前にパジャマのままゴミを捨ててからにしよう…
    いや、やっぱり寝よう!と思った瞬間肩を揺すられて起こされた。

    目を開けたさわ子の目の前にいたのは上からこちらをのぞき込んでいる律と紬の二人だった。

    ふぅ…やっぱりロクな事じゃないほうが多いかも…
    とさわ子が思い直していると、彼方に先程自分達が乗っていたピックアップトラックが荷台部分が半壊した状態で横転しているのが見えた。

    よくもまぁあんな状態で生き延びられたものだ
    さわ子は自分の強運に感謝した、やはりあの子達に振り回されてた分神様はいざという時に自分の味方になってくれたようだ。

    周りでは自分達と共に殿を努めていた自衛隊員達が車から降りて円陣防御を敷いて車から落ちた自分達を回収してくれようとしているところだった。

    その時さわ子の頬に水滴が当たった、雨か?と思ったがそれは律と紬が流している涙が頬に当たっていたのだった。

    『何で二人とも泣いているの?』と声をだそうとしたら、口から大量の血が出てきた。

    律と紬の二人の肩を掴んだ自衛隊員が、首を二三回横に振るのが見えた。
    『立ち上がらなきゃ』
    だがどうしても足に力が入らず立ち上がれない
    不思議に思ったさわ子が首だけを少し持ち上げ自分の体の状態を見てみた

    腰から下が無かった。

    『ふぅ』
    小さく溜め息をついたさわ子が首を地面に下ろした。

    『これが死んだ時にみゆる光か…熊ども許せよ』

    小さく唇を動かし呟いたさわ子の顔を覗きこむように律と紬の二人が涙を流しながら顔を近づけてきた
    さっきの言葉が聞き取れなかったらしい。

    律と紬の二人に、もっと耳を近づけるように促すと二人は口に触れるか触れないかの位置まで耳を近づけてきた。

    『教えるわね…宮沢賢治の『なめとこ山の熊』よ、いいお話だから二人とも必ず生き延びて呼んでみなさい、さ、いって…』

    一心不乱に首を振り続ける二人を自衛隊員が無理矢理に肩から担いだ
    さわ子はその自衛隊員達に眼だけで意志を伝えた。

    自衛隊員達は敬礼をして二人を抱えたまま別のピックアップトラックに乗り込んだ。

    遠ざかる二人の姿を見ながら、さわ子は最後に『最後に先生らしいことしてあげた、よかった…いや、先生というより友達かしらね…』と呟きそっと眼を閉じ永遠の眠りについた。


    166名も無き被検体774号+[]:2013/04/06(土) 19:59:51.53 ID:ayI+ZTGY0
    19:41

    さわ子が息を引き取った同時刻。

    逞しい体格をしたピットブル・テリアとドーベルマン数匹が興奮のため涎を垂らしながら暗闇を疾走している。
    狙いを定めた闘犬と猟犬達は、さらにスピードをあげ跳躍した
    何メートルも跳躍した犬達の狙いはZ達の喉元だった、完全な精度で首に食らいついた犬達はZを地面に叩きつけて喉元に食らいついたまま首を食いちぎろうと激しく頭を横に振っていた。

    いまもって原因は不明だが、Z達は人間以外、とりわけ犬には興味を示さない。

    それを利用して犬達をZ用の闘犬として調教したものが現在にまでに至って使用されている『対Z用闘犬』である。

    闘犬達がZの首を胴体から引き離している光景を和は愕然とした表情で見ていた。

    『何で?何でZが壁内に?』『いや、それよりも憂を…』
    和が思考の迷路に陥って動きを止めている間にも、Z達はうなり声をあげ疾走してくる。

    体に致命傷になるほどの弾丸を受けた憂は、地面に仰向けになったまま瞳孔を開いたままピクリともしない。

    澪「和ぁぁあ!」

    涙と鼻水をダラダラ流した澪が、惚けている和の背中にしがみついてきて和はハッと正気に戻った。

    澪「逃げなきゃぁあ!!」

    和「…」

    澪「和ぁぁあ!!」

    和「そうね…逃げましょう…でも」

    澪「?」

    澪は体に焼け箸を当てられたかのような熱さを覚えて後ろに二三歩よろめきながら下がった
    脇腹から熱さを感じ不思議に思った澪が自分の脇腹を見てみた澪は、脇腹から失血しているのを見た。

    和「あなたは足手まといよ」

    和の手に握られたグロックから煙があがっていた。

    澪「…の…どか?」

    澪は、憂の横にそのまま倒れ込んだ。

    そのまま和は、いまだ気を失っている唯を肩に乗せて引きずりながら脱出用シーホークが多数待機しているはずの桜高校付近に向けて歩き出した。


    1681 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/06(土) 20:19:29.30 ID:ayI+ZTGY0
    19:43


    澪「…かぁ…ふっ」

    脇腹から大量の失血をし、必死にそこの傷口を両手で押さえながら止血を試みるが血は止まらない。

    『これは罰だ』
    と澪は思った、和は明らかにおかしかった
    だが、自分は憂が撃たれた時、唯が殴られ倒れた時自分は何もしなかった、これは罰なんだ…

    倒れている憂と澪の横を、大量の避難民が通過していった
    脱出に必死な人間達は、誰も澪や憂を助けることなどに気が向かない。

    『助けて』の一言が出ない澪の横でうつ伏せに倒れていた憂の手がピクリと動き、一息『ブフッ』と息をし砂煙をあげた。

    避難民を追ってきたZが、地面に倒れている澪に気付き、口を裂けるぐらいにあけ襲いかかってきた。

    身をねじって逃げようとする澪の喉元目掛けてZが食らいつこうとした瞬間、澪の後ろから伸びた憂の右手がZの頭をつかみ
    親指をZの目の中に突っ込むと、そのまま物凄い力でZの首を90度ひねりあげた。

    そのままZを地面に倒し、立ち上がった憂は澪に右手を差し出し起こしてあげながら
    こちらに向かってくる殿の車のライトを指さし、止まってもらえるよう手を振るように告げると
    憂は和と唯が向かった先に向けて走り出した。


    170名も無き被検体774号+[]:2013/04/06(土) 20:42:31.08 ID:ayI+ZTGY0
    19:43

    律「このやろう!このやろう!このやろうがぁあ!!!」

    涙と、鼻水で顔全体をくしゃくしゃにした律と紬が、ピックアップトラックの荷台で迫り来るZの大軍に向けて大量の銃弾を撃ち込んでいく。

    恩師の死を目の当たりにした二人にとって、いや、梓や聡の死も経験した二人にとって
    目の前のZの大軍は恨むべき敵に他ならなかった、いままでは命をつなぐための戦いだった
    だが、いまはもう違う、この戦いは散っていった人たちへ贈る鎮魂歌、いやそんな綺麗事ではない、『復讐』であった。

    『死者だけが戦争の終わりを見た』とはプラトンの言葉であるが、死者が戦争の火種になっている今になっては虚しい言葉である。

    律「なぁムギ!笑うなよ!」

    荷台にしがみついて来たZの頭部をハイマー君で叩き潰した律が、体中に黒い液体を浴びながら紬に叫んだ。

    紬「なぁに!?」

    同じく荷台にしがみついてきたZの頭部をモシンナガンの銃底で砕きながら聞いた。

    律「私先生になろうと思うんだよ!なれるかな!?」

    紬「なれるよ!りっちゃんならきっとね!」

    二人は荷台の中央でハイタッチした。

    その時急にピックアップトラックが止まって、不思議に思った律と紬が前方を見てみると
    脇腹を押さえながら苦痛に歪んだ顔のままこちらに向かって手を振る澪の姿がライトに照らされていた。


    172名も無き被検体774号+[]:2013/04/06(土) 21:16:07.36 ID:ayI+ZTGY0
    19:48

    誰かに引きずられている感覚を覚え、唯はうっすらと目を開けた
    頭が割れるように痛い、それに鼻の中で血が固まってしまっていて呼吸が苦しかった。

    一体自分はどうしたんだろう?覚束ない頭で思い出してみた
    校舎から和ちゃんが飛び出してきて…それから頭に凄い衝撃を受けて…先はあまり覚えていない。

    荒い呼吸を口でしながら、唯は自分を引きずっている人間の正体を探ろうと首をわずかに曲げてその人物の顔を見た。

    そこには和が『はっはっ』と息を切らせながら額に汗を流しながら唯を引きずっている姿があった。

    『ヤだっ!』という言葉と共に、和を両手で突き飛ばした唯は、覚束ない足の感触のためその場に尻餅をついた。

    和「唯、起きたの?大丈夫?立てる?」

    昔と同じ柔らかな優しい笑顔で和が唯に右手を差し出した。

    唯は、その右手を無言のまま平手打ちで払った。

    和「どうしたの唯?なんで怒ってるの?」

    和は困惑した表情で平手打ちを受けた自分の右手を見ていた
    もう和は、善悪の彼岸に達した存在と化していた。

    唯「来ないで!!」

    唯の喉から全力を振り絞った声を出した瞬間
    和は一瞬ポカンとした表情をしたが、すぐに元の優しい笑顔のまま唯のそばにかがみ込み、笑顔のまま唯の頬に渾身の力を込めた平手打ちぶつけた。

    和「駄目でしょ唯、ちゃんと学校の校則は守らなきゃ」

    不意に受けた平手打ちを頬に受けて、鼻水に詰まった血が砕けて新たな鼻血が唯の鼻下を流れ
    唯の口に鉄の味が広がっていく。

    和「ね?」

    今度は反対側の頬を手の甲で渾身の力を込めて打った。

    和「ね?ね?ね?」

    唯の胸をつかみながら唯の首が右に左にと激しく揺れるくらいの往復ビンタを食らわせる和。

    上空を桜高校付近に待機させていた何十機もの搬出用シーホークの第一陣が、避難民を乗せて飛び立っていった。
    最終脱出時間までもうあまり残されてはいなかった。


    173名も無き被検体774号+[]:2013/04/06(土) 22:38:47.13 ID:ayI+ZTGY0
    桜高校防壁避難所から飛び立ったHH-60H 5機が、避難民を大量に乗せ、避難民達が生まれ育った街の上空を飛行していく。

    平時なら夜には光のイルミネーションに彩られたこの街も、いまや死に支配され暗闇に満ち満ちた街に変貌していた。

    そんな暗闇の中を、HH-60Hは『その場所』に向かって飛翔していく。


    『メガフロート』

    数限りない浮体ブロックによって構成された海上に浮かぶ簡易島である
    元々の使用目的は海上油田の採掘の際作業員の居住区として利用されるが
    もちろん軍事利用として活用もされる側面も併せ持ち
    日本では長らく本格制作の口火が切られなかったが
    今回の戦争を受けて、国と琴吹家が全面協力のうえ完成させた10km×10kmの超大型メガフロートが海上に完成していた。

    話は変わるが、戦争が始まってからの国の対応の早さが国の官僚達が予めこの事態を予測していたのではないか
    という陰謀説がいまだに根強くあるのだが、わたしは強ち間違ってはいないのではないかと思っている。

    話が脱線したようだ、『彼女達』の話に戻そう。


    1841 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/07(日) 19:45:55.01 ID:lXSz9QnI0
    19:50

    抗原不連続変異という言葉を知っているだろうか。

    抗原不連続変異とは2つ以上の異なるウイルス株あるいはウイルスに由来する表面抗原が組み合わさり
    新しいサブタイプのウイルスが形成される一連の過程であり、インフルエンザウイルスにおいてよく認められる。

    抗原不連続変異という用語は特にインフルエンザに関する文献において用いられ、最も知られた事例である。

    憂のZウイルスとキラーTが組み合わさり変異した結果、憂は自我を持ったままZウイルスの特性を持つ人間へと変化した。

    いや、変化とはいえないのかもしれない、憂は憂のままだった
    大好きな姉を心配する優しい少女、いくら人並みはずれた力を手に入れたとしても憂の心が偏旁しなければそれは憂なのだ。

    ヒトをヒトたらしめているのは心、とは誰が言った言葉だろうか。

    暗闇の中を疾走する憂の目の前に、いままさにZに襲われようとしている母子が見えて憂は地面を滑りながら急ブレーキをかけながら足を大きく開き地面に落ちているこぶし大の石を拾った。

    そのまま、憂は頭を地面につけるぐらいに体を反り
    左足を上げ思いっきり地面に叩きつけ石を握ってる右手を半円に物凄いスピードで回転させた。

    そして母子を襲おうとしていたZの頭が弾け飛んでそのままZが手を痙攣させたまま横に倒れた。

    憂が地面に倒れている子供を助け起こそうとした瞬間、頭に軽い衝撃を受けた。

    子供が投げた石が額にぶつかったのだ
    『母ちゃんに触るな!化け物!』気を失ってる母親を庇うように覆い被さった子供が、憂に向けて拒絶の言葉を吐いた。

    『あぁ…そうか…そうなんだ…』
    憂は自分の頬を触ってみる、先程の銃撃により唇まで裂けた自分の頬に触りながら憂は悲しい笑顔になった。

    『そうだよね…私は…きっと…』
    憂は泣いているのか悲しんでいるのか笑顔なのか分からない顔のまま母子に背中を向けて
    『早くヘリに向かって』
    とだけ呟いて暗闇の中に消えていった。


    185名も無き被検体774号+[]:2013/04/07(日) 20:26:12.87 ID:lXSz9QnI0
    19:49

    律、紬、澪を乗せたピックアップトラックが、HH-60Hの待つ場所へと
    エンジン全開で突っ走っていく。

    地面の起伏でピックアップトラックの荷台が跳ねる度にお腹に包帯を巻かれた澪が泣きそうな顔で、いや、泣いていた。
    さっき律と紬の二人に無理矢理押さえつけられピンセットで弾を摘出されたばかりなのだ。

    いや、涙の理由は痛みだけではない、律から聡とさわ子先生が死んだことを聞かされたからだ。

    死に目に会えなかった、最後に言葉をかけてあげたかった
    澪の目からさらに涙が零れた。

    律「おいでなすったぞー!」

    HH-60Hが多数待機してる場所に向かってる律達だが、Zの群れも同じように待機場所に殺到しはじめていた。

    たく、どんだけ人間に執着してるんだコイツラは
    と律は嫌な気分になったが、気を取り直して中折れ式猟銃を構えた。

    律「殺到されたら避難できないからここらである程度ぶっ潰そう」

    紬「そうしましょう」

    紬が最早相棒と化しているモシンナガンを構えてZを迎撃するべく構えた。

    澪「なぁ律…」

    澪は弱々しい声で律を仰ぎながら疑問に思ってる事を聞いた。

    律「ん?なに!?」

    澪「何で…お前たちは戦えるんだ
    律「生きたいから!!!」

    気持ちいいぐらいの即答だった。

    律「それがさっきまで!今は聡とさわちゃんと梓の仇をとるため!あいつらをぶっ潰す!以上!!」

    猟銃を撃ちながら薬莢を排出し、薬莢が地面につくまでに薬指と中指と人差し指でスラッグ弾を二発
    と思ったらすっぽぬけて澪の顔面に直撃した。

    『ごめん澪、めんご』と律は澪の方を振り向いて笑った
    『まだまださわちゃんみたいにいかないなー』と一発づつスラッグ弾を込めていく律を見ながら澪は微かに笑った。

    澪「単純だなぁ…律は…」

    律「澪は考えすぎだ!!」

    澪は痛みをこらえて立ち上がった
    昔っから単純な友人を持って不幸だなぁ私はと澪は思いながらも
    律の言葉にある問いの答えを見た。

    澪「考えすぎないようにしてみる」

    澪は銃を構えた、もう迷いはなかった

    脱出時間まで、あと10分。


    186名も無き被検体774号+[]:2013/04/07(日) 21:12:37.02 ID:25rkoJRc0
    最終脱出時間まで、後7分


    和に頬を殴打された唯が、頬を腫らした顔で鼻血を撒き散らしながら地面に倒れ込んだ。

    『ふぅ…疲れちゃった…唯行きましょう』
    相変わらず邪気のない顔で自分の両手についた唯の血を舐めながら和は唯の胸元を掴んだ。

    口をパクパクさせてる唯を不思議そうで眺めながら、和は柏手をうった。
    『何か喋りたいの?』
    と和は唯の顔の近くまで自分の顔を近付けた
    尚も口をパクパクさせる唯
    『ん?どうしたの?』
    さらに唯の顔に自分の顔を近づけた瞬間
    唯の口から『ペッ』と吹き出してきた血と唾が混じったものが和の顔面に直撃した。

    精いっぱいの唯の戦いであった、自分はりっちゃんやムギちゃんのように強くない
    あるのは意地だけだ、妹を守り抜くという意地だけだ
    目の前にいる和ちゃんに似た違う生き物に屈するわけにはいかない。

    和の眼鏡が真っ赤に染まり、和は静かに眼鏡を外して立ち上がり眼鏡拭きで拭き始めた。

    和「唯…」

    そのまま右足を一歩踏み出すと、唯の鳩尾を渾身の力を込めて踏みつぶした
    『メキッ』という音と共に、唯の胃から血が逆流してきて口から血が吹き出してきた。

    『なんでわかってくれないのかなぁ…』と悲しみに満ちた顔のまま唯の鳩尾を踏みしめてる足にさらに力をこめた。

    和は考える
    暴れるから連れていきにくいんだ
    じゃあ静かにさせて引きずっていけばいいんだ。

    和は難問を説いた時のように恍惚とした表情になり、付近に落ちていた血の付いたマチェーテを拾ってきた。

    『両手と…両足かな…』と呟いた和がマチェーテを振りかぶった瞬間

    暗闇の中から物凄いスピードで駈けてきた憂が、ピューマが獲物に飛びかかるように和に飛びかかった。


    187名も無き被検体774号+[]:2013/04/07(日) 22:16:25.97 ID:egCdTQ0Q0
    最終脱出時間まで、後6分


    純は、最後の発進待機をしている6機のHH-60Hの一機に搭乗していた
    ヘルメットを被った操縦者が慌ただしく乗り込んできて無線で何やら交信している。

    純は、ヘリの窓から外の景色を眺めてみた
    近くで迫撃砲の爆発や、絶え間ない銃撃音が聞こえてくる
    やはりもうこの、慣れ親しんだ学校ともお別れなのだと純は肩を落とした。

    梓が死んでから無気力な生活を送っていた
    全てがどうでもよかった
    仲のよかった友達の一人は死に、もう一人の友達は部室に面会謝絶扱いの病人としてかつぎ込まれて会うに会えない。

    純は世界に自分一人のような感覚に陥り無気力な、いや、きっと鬱病だなのだろう
    このような状況で、自分の命などどうでもいいと思う人間なのだから。

    一体あの楽しかった日々はどこにいってしまったのか…
    純は、両手で顔を覆ってしゃっくり混じりの嗚咽を漏らした。

    家族も全員死んでしまった、もう自分を心配してくれる人など誰もいない
    純はそう思い込んで追い詰められていた。

    ここであるものと出会わなければ純も『裏返り』を起こして自滅していたのかもしれない。

    純が自分を抱きしめるかのように手を交差させてギュッと力を込めた時、胸ポケットに何か堅いものがあるのを感じた。

    『これは…』
    Zの殺戮がはじまる前の晩、寝ながら聞いてたiPodだ…
    ずっと持っていたのを忘れていた、一体何を聴いていたんだったか…
    純は脳裏に無茶苦茶だが心に残る歌を歌う先輩達の顔が浮かんだ。

    『もう一度…ライブで聴いてみたいなぁ…』純は涙を流しながら両手を合わせた。

    神様どうか先輩達を無事に避難させてあげてください、お願いします。

    だが純は知らなかった、神様とやらは行動しないで願うだけ願うものの願いなど叶えない事を

    そしてその先輩達はZの群れと、大切な友達は同じ人間と桜の戦い最後となる激戦を繰り広げている事も。


    1991 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/08(月) 19:54:03.51 ID:lFmvGBII0
    最終脱出まで、後5分


    中折れ式猟銃を発射し、目前に迫ったZの頭部を律が正確に吹き飛ばし薬莢を排出した瞬間
    律と背中合わせにZ達をベレッタM92を片手で乱射していた澪が律の腰ポケットから素早くスラッグ弾を二発取り出し
    律の猟銃に装填すると、律は手首を軽くスナップさせて猟銃を『ガチン』とはめ込み猟銃を発射した。

    見事な連携だった、幼い頃から一緒に育ちお互いに酸いも甘いも分かっている2人だからこそ出来る連携であった。

    そんな仲むつまじい2人を若干嫉妬混じりの目で見ていた紬は頬をプクーッと膨らませると
    ついいままで乱射していたモシンナガンを肩にかけ腰に装着された若干ガンスミスにカスタマイズさせたベレッタM 92を二丁取り出し二丁拳銃の構えをとった。

    『お願いしまーす』と紬が周りの自衛隊員に呼びかけると
    自衛隊員が、周囲に底部が球体になっている異様な形をしたマガジンを辺りにばらまき始めた。

    地面に落下したマガジンは、球体を下にして起き上がり小法師のように直立した。

    それを確認した他の自衛隊員も、グリップエンドに釘のような突起物のついたベレッタM92を二丁装備し始めた。

    『対Z接近銃撃戦開始!』紬が叫ぶと迫ってきているZ達から逃げるどころか自衛隊員達は向かっていく
    紬も同じようにZに走っていき、Zの頭部を釘のような突起物のついたグリップエンドで砕いた反動で体を半回転させ反対側から向かってくるZの頭部を撃ちまくり
    弾が切れた瞬間銃からマガジンを落下させもう片方の銃で身を屈めながらZの膝を打ち抜き
    倒れたZの頭部を正確に撃ち抜く。

    やがてもう一丁の銃からマガジンが落下した瞬間、紬はジャンプして前転しながら地面に数限りなく乱立しているマガジンに向かって両の手に握りしめたベレッタM92を叩きつけた
    そのままベレッタM92のグリップにマガジンが吸い込まれていった。


    紬が映画からパク…インスピレーションを感じた『対Z接近銃撃戦』の考案の、これが結果だった。
    周りに転がる無数のZ、そして呆けた顔をした律と澪だった。

    律「ぉおい!ムギ!弾こっちに飛んできたぞ!かすったぞ!」

    小さく舌を出し『ごめんなさい』と謝る紬を見ながら
    澪は多分自分達は生き残るなと思った。

    余談だが、『対Z接近銃撃戦』
    紬は映画のままの名称にしようとしたが、反対され仕方なくこの名称になったらしい。

    殿の一陣が再度車に乗り込み最終避難時間に間に合わせるために急発進した時

    澪「ん…ちょっと止まってくれ」


    201名も無き被検体774号+[]:2013/04/08(月) 20:34:16.19 ID:wtEAuqLg0
    >>199
    ごめん状況がイメージできん


    203名も無き被検体774号+[]:2013/04/08(月) 20:36:39.14 ID:DFZDhh3U0
    >>201
    ガン・カタや!


    200名も無き被検体774号+[]:2013/04/08(月) 20:30:14.26 ID:lFmvGBII0
    最終脱出時間まで、後5分


    『ブチン』という鈍い音と共に右手が宙を舞った
    右手は空中で二回転して地面に落ちた
    赤黒い粘性の液体が地面に広がっていく。

    憂の右手だった。

    和に俊敏な動作で飛びかかり、伸ばした右手が和の頬に触れた瞬間
    和は人間の反応速度を越える速度で首をひねるとそのままマチェーテを振り上げ憂の右手を切り落としたのだ。

    当たり前だが、ある程度憂が襲い来ることを予測しなければこのような動きは出来ない。
    そう、和は予測していた、あの時唯を抱えて歩き出した時憂の右手が微かに動いたのを和は見逃さなかった。

    冷静な判断力
    それは昔の和でも今の和でも変わらない。
    あのまま憂に止めをさそうとしたらZ達に囲まれ死んでいただろう、憂が追いかけてくるのは分かりきっていたが
    もう目の前に避難民達を回収するためのヘリの待機場所がある
    決着をつけてから向かっても十分間に合う。

    和はマチェーテを構えなおした。

    憂はウィルス変異により人とは違う人になった
    だが、不老不死でも何でもない。
    心臓の鼓動が止まれば、首が胴体から切り離されれば死ぬ
    生き物であればあたりまえの事だ。

    さらに、いくら人間離れした力を手に入れたとしても
    それをうまく使いこなせなければ意味がない。

    自転車にようやく乗れるようになった人間に車に乗れと言っても乗れる筈もない。

    憂は切り落とされた右手を気にする様子もなく庇うように倒れている唯の前に立ち
    猫科の動物が力を溜める動作のように力強くては身を屈めた。


    205名も無き被検体774号+[]:2013/04/08(月) 22:01:14.28 ID:lFmvGBII0
    最終脱出時間まで、後4分


    和は唯や憂から目線を外し暗闇を見た
    憂は和から目線を外そうとせず和を見据えている。

    それが和と憂の差だった、つまり判断力の差だ
    憂は目の前の和のみに集中し、和は周りの全てに集中していた。

    和は憂の方に向き直ると、二三歩下がった
    その行動を憂が不思議に思った瞬間、和が憂に向けて手を軽く左右に振った。

    その意味は『バイバイ』だった。

    いきなり憂の横の暗闇からZが飛び出してきてその場にいる中で一番弱い存在、つまり唯に向かって突進してきた。

    不意をつかれた形になり憂の対処が完全に遅れた形になった
    唯の足にしがみついてきたZのアゴを蹴り上げて空中に浮いたZの喉を左手で掴むとそのまま地面に叩きつけた。

    Zの頭が地面にめり込み絶命直前の痙攣を始めた頃、憂は気付いた。

    和はこれを狙っていたのだと。

    憂の真横に移動していた和がマチェーテを振り下ろした
    マチェーテが憂の左手にめり込み、そのまま骨を断ち、また憂の左手が空中に舞い地面に落ちた。

    憂が絶望の叫び声をあげた瞬間、和が最後の一撃を加えようとマチェーテを憂の首筋に対し横凪にしようとした瞬間
    和の足の甲に鋭い痛みが走って和の動きが一瞬止まった。

    和も計算すらしていなかった

    いつの間にか和の足元に這いずりながら移動していた唯が
    渾身の力を込めてナイフを和の足の甲に突き刺していた。

    蟻のひと咬みであった。

    和「唯ぃぃぃいいい!!!!」

    唯に向けてマチェーテを突き立てようとした時、両手を失いながらも跳躍した憂が狙いを定めた和の喉に
    憂の歯がめり込み肉を引き裂いた。

    和の首から噴水のように血が流れ出した。


    206名も無き被検体774号+[]:2013/04/08(月) 22:34:09.42 ID:lFmvGBII0
    最終脱出時間まで、後3分


    喉から大量の血液が流れ出し、和の上着を赤く染めていく
    それでも和は虚ろな顔をして立っていた。

    …私は一体何を、誰を守りたかったのか…
    明確だった答えはやがて曖昧になっていった。

    …あぁそうだ…私は唯を守りたかったんだ…人一人が助けられる命なんてたかが知れている…
    …だから唯一人を救おうと私はその他を切り離したんだ…

    致命傷にもかかわらず、和は倒れようとはしなかった
    唯一人を救うため全てを犠牲にした
    心という曖昧なものが、体が倒れる事を許さなかった。

    …私は間違っていたの?…

    和の手からマチェーテがこぼれ落ちた。

    …誰か教えてちょうだい…私は…

    『パン』と暗闇の中から銃声が響き、和の体が微かに震えた。
    和の背中から入った弾丸が、心臓を通って胸元から抜け出た。

    振り向いた和の目に、銃口から煙を出したベレッタM92をこちらに向けている澪の姿が写った。

    …間違っていたの?澪…

    和はゆっくりと、とてもゆっくりと前のめりに倒れた。

    脇腹を押さえながら倒れてる和の脇まで歩いてきた澪はかがみ込み和のズボンの腰に差されていたグロックを取った。

    澪「…返してくれ、これは律からもらった御守りなんだ和…」

    …誰か教えて、私は私は…答えを知らないまま…嫌だ…誰でもいい…誰か……誰か教えて頂戴…答えを…答えを…


    和は絶望の中絶命した。


    208名も無き被検体774号+[]:2013/04/08(月) 23:47:55.66 ID:rzFK3iUc0
    最終脱出時間まで、後1分


    夜の闇の中、盛り土の上に石が乗せられているだけのお墓に備えられた花が風に揺れた。

    同じ時間、地面に横たわり心なしか穏やかな表情をしている下半身を吹き飛ばされた死んださわ子の髪も風に揺れていた。

    全ての終わりは静寂と共に訪れる、だが忘れてはいけない
    全ての終わりは全ての始まりなのだという事を。

    待機していたHH-60Hのうちの一機から純が飛び出してきた。

    そのすぐ後に何台かのピックアップトラックが猛スピードで走ってきて急ブレーキをかけて止まった。

    純はその何台かのピックアップトラックを見渡しながら目的の人物達を探そうと試みるが
    荷台から降りてきた自衛隊員達の波に飲まれてしまいそのままヘリの中に押し戻されようとしていたその時、聞き慣れた声が聞こえてきて純は振り向いた。

    律と澪が唯を両脇に抱えて、紬が憂を抱えながら荷台から降りてきたのを見た純は、思わず叫びながら皆の元に駆け寄った。

    皆に『無事でよかった!』と声をかけようとした瞬間、純は皆の状態を見て言葉を詰まらせた。

    律と紬はZの体液まみれ、澪は脇腹に重傷を負い、唯は両頬ともに腫れ上がり口から血が流れている
    だがもっとも純が衝撃を受けたのは、友達である憂が両腕を無くし頬も裂け息も絶え絶えに紬に抱えられている姿だった。

    純は頭が真っ白になり憂に駆け寄ると思いっきりの力を込めて憂を抱きしめ泣いた。
    そんな純を憂は優しい笑顔のまま純の頭に自分の頬を擦り付けた。
    本当は手で頭を撫でてあげたかったのだろう。

    ヘリの搭乗員から早くのりこむよう催促され、全員でヘリに乗り込んだ
    と思ったが、憂だけはヘリに乗り込まなかった。

    唯「…う…い?」

    頬が腫れ、うまく喋れない唯は喉に精一杯の力を込めて大事な妹の名前を呼んだ。

    憂はヘリから体を乗り出してる唯に近付き頬をすり寄せ『お姉ちゃん…暖かいなぁ…』と呟きさらに

    『さよならお姉ちゃん…お姉ちゃんの妹で憂は幸せでした…』
    と唯の耳元で呟くと、ヘリから一歩、また一歩と後ずさっていった。

    唯、律、紬、澪、純がヘリから降り憂を連れ戻そうとした時自衛隊員達が全員を押さえつけ『もう時間がない!』と叫ぶ。

    暗闇の中、目視できる距離まで大量のZ達が殺到してきていた。

    憂は優しい笑顔のまま、律、紬、澪、純の顔を
    順に見渡すと、深々とお辞儀をした。

    その意味は
    『お姉ちゃんをどうかお願いします』
    だった。

    気が狂ったように泣き叫ぶ唯を一回だけ見た後、憂は皆に背を向けてZ達の大群に向かってゆっくりと歩き始めた
    その目には涙が溢れていた

    そして、唯達を乗せたヘリが桜高校防壁避難所から離脱すべくホバリングした。


    2161 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/09(火) 10:53:17.62 ID:vZbr+/jU0
    桜高校防壁避難所から最後の避難者達を乗せた一報が超巨大メガフロート『桜の街』に設営された臨時指揮序に入った時
    その場にいる人間全員に緊張が走った、完全撤収と同時に『ヶ号作戦』が発動される事が前から織り込み済みだったからだ。

    防衛省のお偉方や、アメリカ国防総省のお偉方の面々がヘリのパイロットと無線交信を担当している
    自衛官の後ろにズラリと並び皆一様に押し黙ったまま事の成り行きを見守っていた。

    何故この場所に国防総省の人間達がいるのかについて話しておこう。

    Z戦争が開始になり、早々に国が瓦解したのはなんと世界の警察とうたわれたアメリカだった。

    アメリカは国土が広すぎた、そのため戦力を集中させることが不可能であり
    『大いなる混乱』によるパニックによる死者の増大、それにニューヨークの戦いはアメリカ軍の大敗北だった
    多数の最新鋭戦闘機、戦車、重火器、歩兵間データリンクを駆使してもZの進行を食い止めることは不可能だった。

    いや、それ以前に戦力の半分を『対テロ』戦争に導入していた時点で国防に回せる戦力が不足していたのも大きく関係していた。

    現在最後までホワイトハウスにいた初の黒人系アメリカ大統領となった人物はエアフォースワンに乗りこちらに向かってきていた。

    ヶ号作戦発動に伴い、桜高校防壁避難所に向けて三機のB-52ストラトフォートレスが向かっていた、機内に特殊な爆弾を積んだまま。

    思えば桜高校防壁避難所の様子をヘリのパイロットから無線交信していた自衛官の後ろに国連での発言権を持つ者がいたこと
    そして唯達と共に最後のHH-60Hに乗り込み避難していた人物の中に防衛省の作戦立案担当者がいたこと
    それら偶発的要素が重なったことによって唯のこれからの言われなき非難は決定づけられたのだ。


    ヶ号作戦とは、旧日本軍が使っていた作戦名であり、意味は『乾坤一擲』である。

    乾坤一擲の言葉の意味の通り、今サイコロは振られた。


    219名も無き被検体774号+[]:2013/04/09(火) 20:17:03.14 ID:vZbr+/jU0
    背後でホバリングしはじめたヘリの風圧を受けて憂の髪の毛が揺れた。

    憂は初めから生きてヘリに乗るつもりはなかった
    いや、初めからではない、子供に石をぶつけられた瞬間からだろう
    自分は最早人間ではない世界の異物なのだ、一緒にいれば大好きな姉に迷惑がかかる、それは憂にとって耐え難いものだった。

    姉に迷惑をかけるぐらいなら…

    その悲壮な決意に私はケチをつけるつもりはない、ないが敢えて言わせてもらえるなら言いたい
    その悲壮な決意をほんの少し生きる勇気に変えたのならその後の展開も変わっていたのかもしれない
    暫くして『ファランクス』という抗Zウィルス薬とは名ばかりの偽薬が世界中に氾濫することになるのだが、憂がいたなら完全なる抗Zウィルス薬が完成していたのかもしれない

    だが、『もし』は歴史には記載されない願望だ
    行動の痕のみが歴史には記載されるのだから。


    憂は依然急ぐでもなく走るでもなくゆっくりとこちらに向かいくるZの大群に向かっていった。

    ある場所まで歩いた憂は歩みを止めてZの大群を迎え撃つ
    憂の目前まで迫っていたZの大群が意志を持っているかのように動きを停止した
    憂からZの大群の距離、実に5mほどであった
    Zウィルスの塩基配列に刻まれた『人間を食い殺せ』という指令を戸惑わせる存在になっていたのだ、憂は。


    220名も無き被検体774号+[]:2013/04/09(火) 20:22:57.65 ID:vZbr+/jU0
    だが、そんな睨み合いが続いたのはほんの数秒 だった 憂の目の意志の光に『仲間ではない』とZの大群は判断した。

    90度曲がり目の前テントに向かう憂に四体のZが食らいついた
    憂の肩、左足、脇腹、臀部にZの歯が食い込んでいく
    憂は痛みを感じない。

    Zに食らいつかれたまま憂はテントの入り口を開けた 尚も大量のZが憂に殺到していく。

    肩の肉を食いちぎられ、食いちぎられた箇所から赤黒い液体が流れる
    憂の目的ははなからこのテントの中であった、 考えなく逃げ込んだわけではない このテントの中に目的の物があったからだ。

    憂の目の前に目的の物が大量にあった 起動スイッチから伸びる線に繋がれた非人道的な兵器

    指向性地雷クレイモアが大量に保管されているテントだった。

    さらに大量のZが憂の体に食らいついてくる
    腹の肉を食い破られ腸が剥き出しになっても憂 の歩みを止められなかった。

    そのまま倒れ込んだ憂の口に起動スイッチがく わえられている
    そのままZ達が憂に覆い被さるように殺到し た。

    …生きたいなぁ…死にたくないなぁ…

    憂の最後の我が儘は誰の耳にも届かなかった。

    次の瞬間起動スイッチを歯で押し何百もの鉄球 とC-4を内蔵した箱は爆発して憂を中心とした 全方位に鉄球をまき散らしていく 誘爆に次ぐ誘爆で何千発もの鉄球が大爆発と共にテントを周辺一帯を凪払っていった。

    大量のZの破片が空中に舞っている中憂の頭部も舞っていた
    そのような状態になっても憂の思考は、考える力は残っていた。

    …お姉ちゃん… 憂は一瞬後に自分が『終わる』ことが分かって いた 憂は最後の景色を想い出すために目を閉じた 最後の景色は決めてある…

    20時04分12秒 憂の死亡により、桜高校防壁避難所攻防戦は完 全終了した。


    221名も無き被検体774号+[]:2013/04/09(火) 20:52:38.03 ID:vZbr+/jU0
    『yui plan』

    それは犠牲的精神による囮の事である。
    戦略に囮を組み込むことによって最小限の犠牲で最大限の効果を与える特攻作戦である。

    当たり前だが考えたのは唯ではない、作戦立案者は唯と同じヘリに乗っていた防衛省の人間であり
    衛星通信による国連で囮作戦の提案者は国防総省の人間である。

    なぜそれが唯の責任になってしまったのか?
    ・混乱の中発案された作戦の立案者の事など誰も気にしなかった事
    ・囮作戦の囮になった人間、つまり犠牲者なのだがその犠牲者の親族、恋人が明確に恨みつらみをぶつける相手を求めていた事
    ・国がスケープゴートとしての人物を唯とし情報操作したから(明確に国が認めたわけではないが私は半ば以上確信している)

    それに、先程も書いたが
    唯が妹の死を自分の責任とし、全ての非難を一身に受けたことも大きい。

    最初は囮はくじ引きで決めていたらしいが、ここ最近は犯罪を犯した人間などを強制的に薬漬けにし作戦に参加させるなど
    非人道的の極みに達していた。

    このような特攻作戦が日本からまたしても生まれた事に私は日本人の犠牲精神は国民性として細胞レベルで植え付けられでもいるのだろうか?
    と私は不思議に思うのだ。

    余談だが、yui plan作戦立案者の防衛省の人間は
    南アフリカ旧大統領による実施による作戦の有効性による正式立案の日に何者かによって殺害されている。

    犯人はいまもって不明である。


    222名も無き被検体774号+[]:2013/04/09(火) 21:27:02.16 ID:vZbr+/jU0
    桜高校上空10m付近をホバリングしながら方向転換しようとしたHH-60Hを大爆発の衝撃波と飛散してきた鉄球が襲った。

    ヘリの体勢が大きく崩れたがなんとか持ち直した
    ヘリの中に鎮座している唯の目は大きく見開かれて虚ろに虚空を見ている
    早い心臓の鼓動だけが唯の耳に聞こえていた。

    そんな唯に律が近づき
    頬を『ぷにゅ』と摘んだ。

    唯の目に一瞬正気の光が戻ったのを見逃さず律が唯を抱きしめた。

    律「唯、生きるぞ!なにがなんでもな!!」

    一瞬後唯の目から涙が流れて喉の奥から嗚咽が出てきた。

    ヘリは唯達の生まれ育った街を飛翔していく
    遅刻しそうになって一生懸命駈けた道路
    皆と一緒に歩いた商店街
    ギー太を買った音楽店
    バイトをしたハンバーガー屋

    そんな思い出もやがて霞んでいくんだろうか?
    皆はヘリの中から眼下の街をぼんやりと眺めた。

    その瞬間ヘリの真横を超低空飛行で三機のB-52ストラトフォートレスが通過して桜高校上空にて特殊弾頭20発を投下してとびさっていった。

    弾頭が桜高校上空で爆発し、桜高校周辺に鉄の矢数万発の雨を降らせた
    『特殊フレシェット弾頭』である。

    桜高校の窓ガラスが全て割れ、校内に飛び込んだ鉄の矢が校内のすべてを引き裂いていく。

    部室の中にも鉄の矢は絶え間なく降り注いでいく
    紬のキーボードが、唯のギターが、梓のギターが、律のドラムセットが、澪のベースが
    鉄の矢に貫かれ粉々になっていく。


    桜高校防壁避難所攻防戦は、大敗北で終了する
    ピンチの時に颯爽とヒーローが現れて助けてくれる
    そんな都合の良さは現実の世界にはない、戦争とは負けて勝っての繰り返しである。

    今日負けた相手に技術と戦術の進歩により明日には勝つ、人類はそうやって戦争に勝ってきたのだから。


    唯達を乗せたヘリが、メガフロート『桜の街』ヘリポートに降り立っていった。


    2371 ◆i79S0VF4SY []:2013/04/11(木) 20:40:07.24 ID:RuUrsAFs0
    エピローグ


    彼女達の10年間を書き記す前に、まずは世界の変遷について書こうと思う。

    Z戦争が人間とZの戦いだけではないのは前に書いた通りである
    世界の警察と言われたアメリカも早々に瓦解し
    パキスタンとイランは難民問題による核戦争で双方自滅した。

    その中で海上にメガフロートによる人工島を築き上げた日本は結果から見れば『大いなる混乱』をも乗り越え辛うじて文明を維持できた国家と言えるだろう。

    さて、彼女達の10年間はまさに光陰矢の如しであった
    待つという時間は長く感じる、だが彼女達に待つという平穏な時間はなかった
    早々に『紅茶会』という対Z民兵集団を作り上げた四人は、日本の各地で孤立している人々の救出の為奔走、転戦した
    その目も回る忙しさの中で、時間はあっという間に過ぎ去っていった。

    『時間は人を待たない』

    まさにその言葉の如く。

    彼女達の過去について書き記すべき事柄はもうない
    私がこれから書き記さなければならないのは彼女達の未来についてだ
    現在から未来へ綴る希望の物語である。

    その時ドアがノックされた。


    238名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 21:07:19.97 ID:RuUrsAFs0
    ドアを開けると、そこには年月がすぎても昔の面影の残る先輩が立っていた。
    『よっ、純!こないだは驚いたぜ?いきなり記者にインタビューされてさー!聞いたらお前のとこの若いのだっていうじゃん』

    少し、私のことについても触れておこう
    目まぐるしく動いていた彼女達に比べて戦闘に参加できるわけでもない私はなにをすべきか迷いながら日々を過ごしていた。

    そんな時暇つぶしに始めた執筆作業、まぁようは小説だが(いま見れば稚拙もいいところだが…)未来が見えず絶望に満ちていた人間達に私の小説は受け入れられて
    今では一角の小説家としてやっていけている。

    『私が聞いても茶化しますよね?』と聞いたら『まぁな』と律先輩はにっこり笑った。

    『小説の中で私達の事呼び捨てにしてないだろうな?』
    図星だった、昔から鋭い人だ、侮れない…
    私がしどろもどろになっている時、律先輩はカラカラと笑って私の頭を撫でた。

    胸には首から紐でぶら下げた真っ黒に干からびた小指が律先輩が笑う度に揺れ一緒になって笑っているようだった。

    『じゃあガキ共待ってるから行くわ』
    と言い残して律先輩は去っていった。

    律先輩の今について語っておこう、なんと律先輩は小学校の先生になった(教員免許を発行してくれるとこなど消滅してしまったため混乱に乗じて先生になった…と私は睨んでる)
    『『ブッ殺すと心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!』はい、これはZをブッ殺す際に放つ言葉です、先生の後に続いて言ってみよー!』
    と漫画から引用した台詞を生徒に教えようとしたりするため
    よく澪先輩に殴られているが、生徒の人気はかなり高いらしい。

    そんな律先輩は、特に熱心になって子供達にお話を伝えている、宮沢賢治の小説集である。

    『終わっても想いは語り継がれてあく』が律先輩の口癖だ。


    239名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 21:38:47.57 ID:RuUrsAFs0
    『あら?』
    律先輩が去ったすぐ後に後ろから声をかけられ振り向いてみると
    ムギ先輩と、澪先輩が並んで立っていた。

    ムギ先輩は、三年前にこの街の市長に就任した
    素早いインフラ整備と、福祉施設の充実、治安維持隊の指揮によりなかば無法地帯に近かったこの『桜の街』を
    普通の街に作り替えた功績によって住民の信頼厚い市長になった。

    ちなみにムギ先輩は琴吹グループ、つまり自らの父親と断絶し、自らの道を歩いている
    (yui plan立案に父親も関わっていたからと言われているが私は本人に聞くつもりはない)

    『あ、あんまり私の事は詳しく書くなよ…』
    昔の恥ずかしがり屋のまま澪先輩は顔を真っ赤にした
    …漏らした事も書きました、と伝えたらたぶん卒倒するだろうなと私は思って笑った。

    笑ったのは久しぶりだ、笑うのは気持ちがいい生きている感じがする。

    『りっちゃん見なかった?』
    とムギ先輩に言われ、私はさっき子供達のとこに向かった事を伝えた。

    『なるべく一緒にいたいのね…次はいつ戻れるか分からないから…』
    ムギ先輩は少し表情を曇らせた。

    『律は私が守るさ』
    澪先輩の腰に差された使い込まれたグロックが見える。

    その日が来たのだ、と私は思った。


    240名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 22:09:04.76 ID:kG3G33wx0
    ムギ先輩、澪先輩と別れた私は
    メガフロート桜の街西港辺りで潮風に佇む唯先輩に会いに来た。

    唯先輩がこの場所をお気に入りにしていることは知っていた
    唯先輩がただ黙って潮風に吹かれながら見ている視線のその向こうになにがあるのかも知っていた。

    唯先輩は、いや何故彼女達はyui planの真実をいままで誰にも言わなかったのだろう?
    唯先輩が皆に口止めしたのか、それとも皆からの非難こそ妹を死なせた自分への救いになるとでも思ったのか?
    唯先輩は非難されたいのだ、そして、許されたいのだろう。

    何に対して許されたいのか?両親か?隣のお婆さんか?最愛の妹にか?
    私にはその心を窺い知ることは出来ない。

    唯先輩は私の後輩に真実を語った

    人がいままでの理念を変えるにはそれなりの理由がある

    それは、つまりそういう事なのだろう。

    yui planにより、人類の勝利は目前に迫っていた。
    皮肉な話ではある、『小の虫を殺して大の虫を生かす』
    それは和先輩の理念そのままなのだから。

    唯先輩がこちらを振り返りいつもと変わらない笑顔を見せた。


    241名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 22:32:27.66 ID:kG3G33wx0
    2023年4月11日4時13分

    メガフロート桜の街ヘリポートに15機のブラックホークが乗せるべき人間を待つため待機していた。

    Zの数の激減に伴い、日本の領海に浮かぶ無数のメガフロート都市からおびただしい数のヘリ、戦闘機、人員を動員した大作戦が始まろうとしていた。

    作戦名『故郷』、Zに支配された日本をいまこそとりもどす時が来たのだ。

    律「さぁて、行きますかね」

    沢山の子供達に『すぐ戻る』と伝え中折れ式猟銃を肩に担ぐ。

    律「熊どもゆるせよ…」
    律はブラックホークに向け歩みを進めた
    モシンナガンを持った紬も律の隣に並ぶ
    そしてグロックのマガジンを取り弾倉確認をしながら澪も並んだ。

    唯は寝坊したようで皆の後ろから慌てて走ってきて皆に笑われた。

    そして、皆がブラックホークに乗り込もうとした時気付いた。

    律紬澪唯「あれ?」

    律「なにやってるんだ?」

    紬「見送り?」

    澪「よく気付いたな今日だって」

    唯「どうしたの?純ちゃん」

    『私も行きます』と皆に告げた。
    『武器は?』と皆に言われた。
    私はただ黙って鉛筆一本を顔の前でふら下げた。

    そう、未来への物語を語り継ぐ人間がいなければ

    私はもう傍観者にはならない。


    242名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 22:54:20.99 ID:kG3G33wx0
    5時25分

    唯達を乗せたブラックホークが薄明かりの中を飛行していく。

    眼下にはもう記憶の向こうへと追いやられた懐かしき街があった。

    10年前と変わらない姿でそこにあった。

    『いい加減墓参りしなきゃな』
    と律が腰からスラッグ弾を人差し指、中指、薬指で二発取り出すと猟銃に装填した。

    『先生は怒るかしら』
    と紬は渾身の力を込めてモシンナガンのコックを引いた。

    『ずいぶん待たせたからなぁ、怒るだろ』
    澪がグロックの安全装置を外した。

    『怒らないよ…喜ぶよ、きっと、聡君もさわちゃんも…憂も』
    唯が立ち上がった。

    三人がただ黙って頷いた。

    朝の光の中ブラックホークは目的の場所に向かっていく。

    ブラックホークの横に別の戦闘ヘリが並んだ
    『こちら沖縄メガフロート飛行隊アルファチーム、混ぜてもらうぜ』
    無線が次から次へ飛び込んでくる
    『こちら四国…』『こちら北海道…』
    瞬く間に唯達のブラックホークを中心に大量のヘリが並んだ。

    10年の間に唯達が救った命がいまこそ報いようと集ってきたのだ。

    私は人類の勝利を確信した
    世界はこんなに希望に満ちている。

    目的の場所が視認できた
    ブラックホークが高度を下げ始めた。

    『さぁ、奪還しようぜ!!』と誰の声とも分からない作戦開始の開始が響き渡る。

    ブラックホークや他のヘリが桜高校に向けて降下していった。





    243名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 22:56:05.53 ID:kG3G33wx0
    はぁ、疲れた
    会話文に頼らないSSマジ地獄っす

    長々と付き合ってくれて感謝です!


    245名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 22:59:04.60 ID:jtO/fumw0
    おもろかったー!


    247名も無き被検体774号+[sage]:2013/04/11(木) 23:48:01.95 ID:gZG0hLVY0
    凄く良かった!


    248名も無き被検体774号+[]:2013/04/11(木) 23:54:59.08 ID:/1PpDlk90
    けいおん見直したくなった、ありがとう


    250名も無き被検体774号+[]:2013/04/12(金) 01:12:08.26 ID:10aXKJqT0
    けいおんと鉄砲好きの俺にはたまならいSSだった!
    面白かった!
    乙でしたー!



    http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1364606239/



    なめとこ山の熊 (日本の童話名作選)真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)









    
                       
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    コメント

    無名の信者 2013年04月12日 21:08 ID:QukOOWqf0 ▼このコメントに返信

    長い

    無名の信者 2013年04月12日 21:22 ID:yI6HH5JT0 ▼このコメントに返信

    こんなつまらんの、

    国民的アニメ寸前になったもんだねー

    無名の信者 2013年04月12日 21:23 ID:yI6HH5JT0 ▼このコメントに返信

    こんなくそアニメ嫌い

    よく、2ちゃんはずるずる引きずっているもんやネ

    無名の信者 2013年04月12日 21:24 ID:yI6HH5JT0 ▼このコメントに返信

    こんなつまらんの、

    国民的アニメ寸前になったもんだねー

    無名の信者 2013年04月12日 21:29 ID:3VeY69QqO ▼このコメントに返信

    ブサヨ発狂www

    名無しさん 2013年04月12日 21:54 ID:3qv.6SLJ0 ▼このコメントに返信

    面白かった
    けどウンコはやりすぎw失禁までにしとけ

    無名の信者 2013年04月12日 22:01 ID:NuBpaOGE0 ▼このコメントに返信

    *2,3,4は何と戦っているんだ

    無名の信者 2013年04月12日 22:08 ID:s.vxodXP0 ▼このコメントに返信

    みんな名前が一文字でわかりにくいから普通に付ければいいのに

    名無しさん 2013年04月12日 22:08 ID:vkhVAQMA0 ▼このコメントに返信

    World War Zか。映画はもうすぐ公開だっけ?

    10 名無しさん 2013年04月12日 22:12 ID:BXxoq6Pr0 ▼このコメントに返信

    長かった
    けど、面白かったよ
    ↑はツンデレだから仕方ないよ

    11 無名の信者 2013年04月12日 22:51 ID:t5orEqs30 ▼このコメントに返信

    AH-64Dは攻撃ヘリなんだから何人も人間を運搬できるわけないだろ!いい加減にしろ!

    12 無名の信者 2013年04月12日 23:33 ID:T0bJ44170 ▼このコメントに返信

    うわぁ…

    13 無名の信者 2013年04月12日 23:34 ID:cgwrh5Oq0 ▼このコメントに返信

    なげえ

    14 無名の信者 2013年04月12日 23:42 ID:ItnLPtdk0 ▼このコメントに返信

    おもしかった
    あとのどかうぜえ

    15 無名の信者 2013年04月13日 00:07 ID:V.muXnll0 ▼このコメントに返信

    だれも手榴弾につっこまない件

    16 無名の信者 2013年04月13日 00:39 ID:YuUnVjsC0 ▼このコメントに返信

    日本語下手くそすぎる

    17 名無しさん 2013年04月13日 01:12 ID:TVC.76g40 ▼このコメントに返信

    映画化決定!!(希望)

    18 無名の信者 2013年04月13日 01:17 ID:wlNS1bSlO ▼このコメントに返信

    LAMはそのお値段から「空とぶ日産マーチ」じゃなかったか。

    19 無名の信者 2013年04月13日 03:24 ID:Sz236Ux50 ▼このコメントに返信

    ^^

    20 無名の信者 2013年04月13日 04:00 ID:rQ4Rty2u0 ▼このコメントに返信

    おもろいわ、用事すっ飛ばして読み切ってしもた

    21 無名の信者 2013年04月13日 22:52 ID:RsqhvLyC0 ▼このコメントに返信

    誰かこれを元ネタに同人誌描いてみろ
    なんか気になる

    

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